3月に開かれた「路上脱出ガイド」(東京版)作成実行委員会ミーティングに出席した。と言っても議決権がある訳ではなく、まぁ「ご意見拝聴」される立場。そうそうたる顔ぶれの支援団体の前では実務未経験者は分が悪い。とはいえ、言うべきことは言わなければならない。
第1回のメモ
2日の「路上脱出ガイド(東京版)」作成実行委員会に参加された皆さん、および参加はしなかったけれど関心をお持ちの皆さん。
根本さんが叩き台となるドラフトを作成してくださっていたため、話を非常に具体的に進めことができました。次回はもう微修正ですので、気付いた点を提出します(当日提起分と一部重複)。
想定読者は路上生活のドシロート
想定読者は路上生活者と、路上には出ていないがネットカフェなどに寝泊まりしている一歩手前の人たちとなったと記憶します(したがって行政の諸施策紹介の中でも住所の存在を前提としたものは省く)。ところがそう決まった後でも、話が微妙に噛み合わない。
現在炊き出しを行っている人たちの念頭にあるのは、路上で生き延びた人たちのように思えます。しかし、雇用危機の中で新たに路上に出てくる人たちはちがうでしょう。路上生活のイロハも知らない、路上ネットワークから疎外されていて、意欲をなくした援助依存と噂に右往左往の両極端を往復するドシロート衆。運動体側は今までの路上生活者観をいったん脇に置く必要があるのではないでしょうか。
読者のペルソナ(象徴的読者モデル)を思い浮かべながら作ってください。変幻自在な「ゴムの読者」は混乱の元です。少なくともどういう人物が、どういう状況で手に取るかとミスマッチがあっては価値が半減します。
ネットカフェ/路上脱出のモデルケースをいくつか用意する
自分の状況を把握し、次に何をすればよいかを理解すれば問題解決は容易になります。コース分けすることで、情報が多すぎて混乱することも防げます。(フローチャートの話も出ましたね)
タイトル案「まともな生活に戻るために」
ネットカフェやビデオ鑑賞室で窮屈な思いをしながら寝ていても「ホームレスじゃない」と思いたがるのが人の性。かといって「ホームレスにならないために」や「路上生活転落予防」なんてすると路上側が絶望してしまう。屋根の下、畳の上でゆったりと寝るのは贅沢ではなく基本的な権利。ということで目標は「まともな生活」はいかがでしょうか(「人間的」と書いて「まとも」とルビを振ってもよい)。頭に「仕事をなくした人が」と付けた方が分かりやすい?
サブタイトルは「東京23区公式情報編」
大阪編に感じた不満の一つは、ほとんど全編が「してあげる」(路上生活者からすると「してもらう」)情報という点ですが、それはそれで一つの編集方針です。でも、それならばそう銘打つべき。(「野宿の知恵」と見られたくないのならなおさら)
自殺防止の観点を取り入れる
職を失い、人とのつながりが切れ、住むところすら失えば誰でも抑うつ的になるでしょう。自殺に走る危険が高くなると考えられます。ただし自殺問題では、素人が善かれと思ってしたことが逆効果ということがよくあるようなので、必ず専門家の意見を聞いてください。
なお、社会的な自殺という問題もあります。2日の朝日歌壇には「不景気の世に獄中の囚徒らが羨ましきと言う人のあり」という短歌が選ばれています。「刑務所に入りたくて」と犯罪に走る短絡反応(下関駅放火事件など)もなんとか予防したいもの。2-3年のつもりが無期懲役となってから慌てても遅い。ちなみに、先の短歌の作者(郷隼人)はUSAで84年から終身刑に服しているとのこと。
闇仕事に巻き込まれることを防ぐ
人の弱みに付け込んで、危ない仕事を持ちかける手合いは必ずいます。社会から弾かれたと感じていると、復讐とまでいかなくても、規範に対して鈍感になりがちです。振り込め詐欺や違法薬物の運搬、あるいは誘拐や強盗の片棒担ぎになりやすい。「失うべきものはまだある」ということを自覚してもらいましょう。犯罪グループはきっと狙っているし、おそらく警察もそういう目で見ているでしょう。事件がキッカケで福祉的な対応が治安的な対策に変われば、自助的なグループを破壊して施設へ分散収容といういやな展開になる可能性も。
団体情報をもっと盛り込む
炊き出し議論の際に提言しましたが、炊き出しの規模や実施団体の趣旨などを書くべきです。(中略)できるだけ詳しい記載を希望。苦労があるならそれも公開する。食べる側も近隣も表面だけ見て誤解することはあるのですから。
表記の統一など
12時制と24時制混在は、時刻を勘違いする人はいないでしょうが、みっともない(いかにも情報の寄せ集めみたい)。まして「午後3:00~17:00 」となると。
用字用語もできるだけ統一しましょう(ワードプロセッサを使うとかなりそろえられますし、この点は作業を引き受けてもようございます)。
ところで「大阪編」と「東京版」で良いのでしょうか?
固有名詞は表記に注意
「もやい」「てのはし」などの団体名は、知らない人は認識しづらい。「NPO法人自立生活サポートセンターもやいのホームベージ」なんて、ほぼ確実に「弁慶仮名」に読まれます(センターも、やいの)。「」でくくるとかフォントを変えるとかの工夫を。
メーリングリストでの補足1
補足です。
1.早く出すことが大切
2.努力はするが、初めから完全なものは目指さない
ですから、よほど妙なことにならない限り、協力は惜しみません。
メーリングリストでの補足2
ドラフトですから、細かい不体裁はあって当然です。細かいところはキッチリしているけど大枠がずれている、という方が困ります。
ただ「これはドラフト」「まだβ版」なんて意識でいると、最終版になって「ぎゃあ〜」ということがままありますので。
たとえば18ページの「ホームレス」は他のページと響きが違っています。パッチワークでは往々にして起きる現象に見えます。こういうのは潰しておかないと、読み手に意識化されない不快感を与えかねません。全体のトーンに気を配る編集長が必要な由縁。
あと、対外的に責任を負うのは誰なのか。言い換えれば、何かあった時に頭を下げるのは誰なのかははっきりしておきたいですね。頭を下げる(場合によっては丸める)人の意見が最終的には尊重される。だから私は自説に固執はしません。...方針不明確な空き地があったら、囲い込んで旗を立てちゃうかもしれませんが。
お役所言葉の扱い 他の提案(3月11日)
さて3つ提言します。1つは繰り返し、2つは新規。
お役所言葉、運動用語は本文に使わない
こういうガイドを初めて手にした人がまず戸惑うのは、日常生活ではお目にかからない用語ではないでしょうか。
東京版はトーンの異なる各ソースからの切り貼りではなく、全面的にリライトされると期待していますが、行政用語・運動用語は日常平易な言葉に置き換えることを(再度)提案します。
「違和感を覚えた」という薄弱な根拠で候補を列挙すれば、
- 支援団体
- 炊き出しの一覧の項目にあったが、これは普通なら「主催団体」「実施団体」。
- カンパン
- 乾パンの方が一般的ではないか? Yahoo!で検索するとスポンサーサイトは上位3つまでが「肝斑」関連。
- 住所地番
- これも不動産取引でもしない限りお目にかからないのでは? 実際問題としても「住居表示」が正しいことが多いし。
- 救急搬送
- 宿所
- 字を見れば意味は分かるけれど、「宿泊場所」と言ってはいけないのでしょうか?
- 自立することが見込まれるとされた
- コピー&ペーストするだけでイライラしてきます。
- 常用雇用
- 意味不明、というより誤解を招く。ある市役所の助成金交付条件では「期間の定めのない労働者又は一年以上の雇用が見込まれ、かつ、1週間の所定労働時間が30時間以上の労働者」と定義されています。正社員をイメージすると大間違い。
- 一定の所得以下
- 「収入」と「所得」は明確に異なるものですが(特に税法上。申告書を書いた人は分かりますね)、ビッグイシューの説明では混同されています(×「160円が収入になります」 △「160円が所得になります」←諸経費を控除できるので実際は150円くらい)から、ここで「所得」という言葉を出すことには賛成できません。
参考:大阪編に見られたムズカシイ用語
- 行旅病人
- 短期間の掩護 ※「援護」とあったのに書き写す際に誤った
- 各種生活面の援助 (個々の言葉は簡単でも組合わさると意味不明になる例)
- 自立促進
- 多重債務
また、必ずしもお役所言葉とは言えませんが、わざわざ固い言い回しにしなくても、と思えたのが
- 入院の場合は、必要な諸経費については
言い換え例「入院する場合も、必要な費用は」
入院する場合、入院費とは別にいろいろ(寝間着、箸、湯呑み、歯ブラシなど)と必要になりますが、その費用も出してもらえるのでしょうか?
- 直近6ヶ月
言い換え例「それまでの半年間」
- 現時点で住居(自己保有・賃貸等)がない
言い換え例「いま住む所がない方」
- 退去を余儀なくされた
言い換え例「追い出された」「退去させられた」
- 住居入居初期費用などの必要な資金
言い換え例「アパートなどを借りるのに必要なお金」
- 生計の維持が困難になった
言い換え例「お金がなくて生活できなくなった」
- 融資
言い換え例「貸す」「貸し付け」
その他、どうも引っかかる言い回し
- 炊き出しを活用し、自立につなげましょう
炊き出しは死なないための緊急手段で、自立とは別の話でしょう。
- 面談で相談
「常用雇用」もそうですが、同じ字が繰り返さるとチカチカっとします。
参考:大阪編に見られた不可解構文
「大阪市内の住居のない人のうち、短期間の援護を必要とする人たちを一時的に受け入れることによって心身のリフレッシュの場を提供し、あわせて3食と入浴が可能です。」
(※ここも正しく「援護」とあったのに書き写す際に誤った)
神戸在住ですが該当しますか?という突っ込みはさておき、「あわせて」以降は別の文にすべき。またこの文もケアセンターの目的を述べているのに、その後の文でまた「目的としています」と来ると「心身のリフレッシュの場を提供」はなんなの?と聞きたくなります。
その他引っかかった用語
- ダイヤル回線から
プッシュ回線との判別法を知っている人は少ないのでは? 「ダイヤル式電話」が無難。
- 正職員への就職
東京都が採用してくれるように読めてしまう。
明らかに誤字
(略)
お役所言葉の解説を載せる
とはいえ、現実には窓口などでお役所言葉に遭遇します。そこで用語解説掲載を提案します。お役所言葉・難解語かの判定方法としては次の指標が考えられます。若い販売者に聞いてみるのも実態に即した選択に有効でしょう。
- 国語辞典にその意味が載っているか
- 『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(http://www.kotonoha.gr.jp/demo/)で、「白書」<「Yahoo!知恵袋」となっているか
ネットには流出するものと覚悟する
(注:ネット公開に関する)牧歌的な議論がありましたが、良いものができればお節介な人が必ずアップします。というか、それくらいのものを目指さなければいけません。駅のポスターは盗まれることが人気のバロメーターなのと同じです。
積極的に載せることはしないとしても、ネットに載せられることを想定しておきましょう。たとえば、各ページのヘッダかフッタとして名前とバージョン(発行日)を入れるなど。
補足
運動体側は今までの路上生活者観をいったん脇に置く必要があるのではないでしょうか。 この台詞を面と向かって言えたら自分に褒美を出していた。orz
できばえがどんなであれ責任を問われることがない反面、どれほど重要に思えることでも同意を得られなければ反映されないもどかしさ。「ならば自分で作る」というのはいたずらにリソースを分散させるだけで、ためにならない。主導権奪取を画策すれば発行遅延というもっとも避けなければならない事態を招来しかねない。今回もまた支援者の限界を痛感した。
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