2016/09/22

「難しい医療・看護・介護の言葉をやさしく」

ツイッターで見かけた第3回コトノハカフェ「難しい医療・看護・介護の言葉をやさしく」というイベントに心惹かれて参加した(9月17日)。

会場はバルトという「ベルギービールとお料理のおいしいお店」。参加費は1000円とやや高めの設定であったが、ちゃんとドリンクが出た(サイエンスカフェに代表される「××カフェ」の中にはカフェとは名ばかり、水も出ないところがあって「言葉を大切にしない人たちだ」と困惑した経験がある)

困っているのは外国人


医療の言葉が難しいことについては以前から話題になっていて、改善の努力が続けられているが、今回の中心は介護の言葉。それはEPA(経済連携協定)によって、8年前からインドネシアとフィリピン、そして最近はベトナムから日本で看護師や介護士として働こうとする人々が来日しているから。日本の施設で実地研修を受けながら国家試験を受け、日本の資格をとって日本で働こうという訳だが、そこに言葉の壁が立ちふさがる。

国家試験に合格しなければ帰国しなければならないのだ。来日するのは既に故国で一定の資格を持っている人。それが日本に4年間滞在して試験に合格しないからと帰国させられると、本人にとって損失だし、送り出した国としても面白いはずがない。ところがたとえば看護師試験は、合格率は約90%なのに、EPAで来日した研修生は10%に満たない時期があったという。そんな状態が続けば、日本で働こうとする外国人は減ってしまい、医療・福祉業界は深刻な人手不足に見舞われかねない。難しい言葉は人材育成を阻害しているのだ。

話題提供者は留学生の日本語教育に携わってきた文教大学教授の遠藤織枝さん。国に働きかけて国家試験の問題文見直しを実現させるなど功のある方なのだが、医療福祉については門外漢という弱みも垣間見られた。

当日のツイート




翌日のツイート




よくわからないままに研修地に青森を選んで苦労した、というのは初期の話。

現場ではスピードが要求される


医療や介護の現場では、意思伝達にとりわけスピードが要求される。モタモタしていたら命に関わることもあるだろう。勢い用語は略されがちになる。その、門外漢から見たら宇宙人の会話みたいなものついていけるのがプロの証とも言える。なによりも言葉は集団のアイデンティティであり、仲間を識別するシグナル 。伝えるだけでなく、敢えて分からせないことにも言葉の機能がある。そういうこともあって、質問票に「②なんでも日常語にするのが解決か?」と書いたがこれは取り上げられなかった。その代わり、参加申し込みの際に書いた「難しい専門用語には、覚えると嬉しくなって無闇と使いたくなる魔力があると感じています」が読み上げられ、これは一部の参加者(さしたる根拠はないけれど、看護師のような専門職)に受けていた。

言い換えると一般に長くなる

遠藤さんが編著した『やさしく言いかえよう介護のことば』を版元が持ち込んで販売していたので購入したが、目次を見ると「言い換えたら長くなるだろう」という予感が当たっていた。短くなるのは「頸部→首」「眼瞼→まぶた」「残渣→かす」「疼痛→痛み」「振戦→ふるえ」くらい。吐血と喀血がまとめて「血を吐く」になっているのもいただけない。「消化管から血を吐く」「呼吸器から血を吐く」のなんという冗長さ。

相手が変われば言葉も変わる

もちろん利用者やその家族に説明するときは別である。専門家ぶる必要もない。誤解されない範囲で(実は日常語だとそれが難しいのだが)平易な言葉を使ってゆっくり丁寧に説明すべき。

ただ、庶民の中には知識レベルが驚くほど違う例があることも忘れてはいけない。ある老人とコンピュータの話をしていると頻りに「言語」とおっしゃる。Cとかコボルの話かと思ったらそうではなく、どうも日本語変換機能(当時はFEPと呼ばれていた)のことだったということがある。また別のやや若いご老人とやはりコンピュータの話をしているとどうも話が通じない。突き詰めてみるとプログラムという用語を「演奏プログラム」「運動会プログラム」「入学式プログラム」のような番組表、進行予定、式次第という意味で理解しようとしていることが分かったことがある。通じる訳がない。ちなみにこの方はコンピュータのハードの説明書に、バンドルされているワープロソフトの使い方が書いていないとご立腹。テレビの取説に番組解説はないでしょ?と説明しても納得しない。実はお二人とも世間では街のインテリで通用する人物なのである。それでこの惨状なのだから、自他共に認めるブルーワーカーが日常化した用語をどう誤解しているかは想像を絶する。

常識といえば、SI接頭辞というものがある。小学生向けの暗記物に「キロキロと、ヘクト出かけたメートルは、弟子に追われてセンチミリミリ」なんてのがあったくらいだし(いつの時代だ?)、コンピュータではキロバイト、メガバイト、ギガバイト、テラバイトがお馴染みだから、テラ(T)は一兆倍、ギガ(G)は十億倍、メガ(M)は百万倍、キロ(k)は千倍、ヘクト(h)は百倍、デカ(da)は十倍、デシ(d)は十分の一、センチ(c)は百分の一、ミリ(m)は千分の一を表すなんてのは常識だと思っていた。ところがmBq(ミリベクレル)をメートルベクレルか?としたり顔で述べつつ「勉強した方がいい」と他人に説教する自称原発事故の専門家がいたのが現実。

用語に対するイメージの違い

汚染という言葉がある。『やさしく言いかえよう介護のことば』ではなぜかたいそう忌み嫌われており「人の行為に対して使うのは不適切」とまで。そして「汚れ・汚れる」で良いではないかと主張されるのだが、どうであろうか。たとえばノロウイルス感染により嘔吐したとする。吐いた物をチリ紙で拭き取ってから水拭きすれば「汚れ」はなくなる。しかしウイルスによる汚染は残っており、次の感染源となりうる。逆に吐瀉物をざっと取り除いてから次亜塩素酸塩水を噴霧すれば、それで汚染はなくなる(だろう←現場を知らない机上論)。極端な話、後片付け=汚れを取るのは資格のない職員でもできる。

また疾病の中には血液はもとより唾液や汗、尿にもウイルスが出るものがある。ゴム手袋をして介護するなど汚物扱いと憤慨されるかもしれない。しかし、これを怠れば他の利用者にも感染が広がりかねない。そういう被介護者はキャリアとかポジティブとか呼ばれるであろうが、分かりやすく「ウイルスで汚れた人」と言うべきだろうか? そんなことをすれば体液に濃厚に接しなければ安全な人に対しても、素人は「隔離してください」と言い出すだろう。逆に感染に弱い人も、それと分からないような符丁でスタッフ間に共有されていると思うが、こちらを「病弱」等と呼ぶことはやさしい言葉だろうか。

医療・福祉とは離れるが、植物組織培養とか微生物培養とかは専門学校でも学ぶ基礎的な実験操作であり、そこでは汚染を理解することは重要(理解していないと実験がパーになる)。そして嫌というほど思い知らされるのが、「最大の汚染源は人間」ということ。ちなみに応用微生物学では培養している菌に雑菌が交じる汚染を忌み嫌うが、その菌が床に溢れようが手に付いていようがあまり気にしない。口に入っても平気だろう。一方、医学部の細菌学では、何しろ扱うのが病原微生物であるから、一番気にする汚染は扱っている菌が外に漏れること。汚染対策の意識は向きが全く逆。応微の人間がいつものように結核菌を扱ったらバイオハザード必至だそうだ。

閑話休題。もう一つ、具体例は忘れたが、遠藤さんと参加者(の一部)との間に「それは違う」という緊張感が走ったことがあった。

テスト学


そういえば、ピントがズレているなぁと思ったのは試験問題の量についても。1題1分とか、そういう短い時間で解かなければならないと憤慨されていた。医療・福祉の知識ではなく、日本語の能力で選抜するような試験はおかしいというのはその通り。ただ、良い試験問題というのは満点が出ないようにするものとも聞く。つまり全問解答は不可能にしてある可能性がある。0点が続出するのは出題に不備があるというのは納得してもらえるだろう。同様に全員が100点を取るテストというのも問題がある。易しすぎるのだ。平均点を中心に得点分布がベル型曲線を描くのが良いらしいが、これは自信がない。

また「正しいものを選べ」と「間違ったものを選べ」が交互に出るのはクイズ的と非難されていたが、これは出題パターンを記憶して意味を考えずに解答する受験生を弾くテクニックだと思う(が、自信はない)

それで次回テーマとして、話の中で出てきたテスト学会を希望しておいた。

感想


多種多様な参加者がいて発展性がうかがえる会であった。次の予定が入っていたこともあり、懇親会は失礼してしまったが、次の機会があれば出席したいものだ。

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2013/06/17

時間が短い「語彙・読解力検定」

朝日新聞とベネッセが主催する「語彙・読解力検定」を受検した。前回は時間が足りなくて読解の最終問題が手付かずという醜態を演じたので、今回は時間配分に特に気をつけ、どんどん飛ばすことで対応した。

それでも時間との戦いで、読解は問題文を精読していたらとても間に合いそうもないので、先に設問を読み、問われている周辺を斜め読みという受検テクニック依存に終始してしまった。もっとも語彙問題もえらくハイレベルで、まるで歯が立たない問題がいくつかあったが、そこでは「とにかく記入」という入試の基礎は発動せず、潔く無回答で通した(合格することが目的の入試とは異なり、この検定は自分の実力を知るのが目的なので、偶然による嵩上げを図っても意味が無い)

限られた時間内に書かれていることを読み取る読解力というものが求められる世界もあるだろうが、そういう正解を探すのだけが読解力だというのには疑問を感じる。なぜなら文章というものは書き手の意図から解き放たれているのだ。

分かりやすい例を挙げるなら、詐欺商法の勧誘文を読ませた場合、書き手が訴求したい「これは安全で確実に儲かります」を読み取るようではアウトで、勧誘文内の矛盾や外部世界(法律や経済状況)との齟齬を見つけ出せなければならない。「私はあなたをカモだと思っています」もまた正しい読み取りなのだ。

国語の試験問題ではしばしば「この時の作者(あるいは登場人物)の気持ちを述べよ」的な出題が槍玉にあがるけれど、実際の設問はどうなのだろうか。ひょっとしたら「作者の気持ちはどうだったと考えるか」ではないだろうか。さらにいえば校内テストであれば「授業ではどうだったと考えられると話したか覚えていますか」であり、入試ならば「どうだったと答える受験生が受け入れられると思いますか」と考えれば、なんの無理もない。

マークシートの場合、「正解はウ(3.)が多い」というような本質とは離れた得点テクニックが生まれるが、それはやむを得まい。しかし試験時間に関しては延長を要望したい。語彙と読解を分けて、間に休憩を挟めば各1時間(=現状+40分)は確保できるだろう。時間配分のような試験テクニックを語彙力・読解力に含めてほしくない。

それと、帰宅して落ち着いてから考えるとなんとなく理解できたが、あの段落を入れ替えた文章を読ませて正しい順番にさせる問題には悩まされた。おそらく段落番号を正しい順番に並べるのが正解なのだろうが、各段落が何番目になるかで答えた例もあるはず(私がそうだ)。マークシートの場合、典型的誤答例がどれだけあるのかを調べるのは簡単なはずなので、ぜひチェックしてほしい。別に正解にしろとは言わないけれど、質問の読解力を確かめるのは反則だと思う。正統的出題であれば、いくつかの順序例を示して正しいものを選択させるからだ。

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2011/06/07

新しい?学部

「一文字の学部を考えるように言われた心理学者渡邊芳之(@ynabe39)さんが考えたら最終的にネタ化した」にまとめられているように、先日タイムラインに(既に散々放散多様化してはいるが)新しい学部名を考えるというツイートが流れてきた。

品位に関わるので詳細は書けないが、とあるツイートに触発されて、既存学部の文字を変える方向に独りスピンアウトした。(昔からこういう駄洒落系が得意)

140字では語りきれないので、元のツイートがふぁぼられていたのを記念して、追補を試みる。


いがくぶ


消化器専門の胃学部
入試は12年に1度の亥学部
訓詁学専門の遺学部
当たるも八卦当たらぬも八卦の易学部


かせいがくぶ


太陽系第四惑星を研究する火星学部
徹底した徴税を追究する苛政学部
川の浄化を研究する河清学部


きょうようがくぶ


カリキュラムが極めてハードな強要学部
独自のキャンパスを持たない共用学部


こうがくぶ


伝統分野をキッチリ勉強させる硬学部
学習院にある皇学部
修身を学ぶ孝学部
入口を学ぶ口学部
出口を学ぶ肛学部
社会主義理論の産業応用をめざす紅学部


しがくぶ


終末期医療を研究する死学部
文学部から独立した詩学部
メディア研究のかつての牙城、電子化に背を向ける紙学部


しょうがくぶ


エンターテインメントを研究するshow学部
整理統合される消学部
火薬を研究する硝学部


しんがくぶ


全員が大学院へ進む進学部
学費が高いのに留年が多い辛学部
偏差値40以下で入学したが見違えるようになって卒業する伸学部


のうがくぶ


みっちり勉強する濃学部
ぜんぜん勉強しないNo学部
高次神経系専門の脳学部
タコツボ化する嚢学部
炎症反応を研究する膿学部


ぶんがくぶ


研究領域を果てしなく細分化する分学部
口承文学に特化した聞学部


ほうがくぶ


コンピュータの原点は弾道計算だの砲学部
ハチを研究する蜂学部
行き場のない連中の吹き溜まり崩学部


やくがくぶ


お祓いを研究する厄学部
翻訳家を養成する訳学部
設置基準を満たさない約学部
高地での牧畜を研究するヤク学部


りがくぶ


陰謀論とは一線を画する裏学部
遊んでいても卒業できる離学部
里山を研究する里学部
鳥取大学と千葉大学が元祖を争う梨学部
消化器感染症研究の痢学部
公務員を目指す人のための吏学部


(こんなことしてる場合か?>自分)

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2009/11/16

「めぐろ買い物ルールBOOK」と「路上脱出ガイド」

新宿御苑で開かれていたライフスタイルフォーラムに行った。その出展の一つ、東京エコ・コレクションへの応募団体の資料を見ていたら、どこかで見たような代物があった。
めぐろ買い物ルールBOOKの表紙
あ、『路上脱出ガイド・東京23区編』にそっくりだ、と思った。
路上脱出ガイドの表紙

実際には大きさがA6判で中綴じの横書きマニュアルであることともう1つくらいしか共通点はないのだが、似ているを通り越して、製作メンバーに同じ人がいるようにさえ思えた。

だが、その「作り方が同じ」は決して好意的な印象ではない。
すべての漢字にルビを振ってある
じゅうきょをそうしつしていなくとも、こようきかんまんりょうによるやといどめ(こようけいやくのきかんがいちねんみまんであったこと。...ひらがなにしたって難しい!
この『めぐろ買い物ルールBook』も『路上脱出ガイド』と同様、すべての漢字にふりがな(ルビ)がある。前にも書いた通りルビ付きの難しい言葉より、ルビなしの平易な文章の方が好ましい。「適宜見直しを行う」にルビを振るよりは「ときどき見直します」と書く方が素直だ。少なくとも誰に読ませたいかがはっきりする。ちなみに『路上脱出ガイド・東京23区編』の総ルビを見て、あるホームレス経験者は「ホームレスは漢字も読めない小学生以下の人間か」と怒っていた(おまけに彼は見ていないが、初版にはご丁寧にも間違ったルビが振られた箇所があった)。

「文章を分かりやすく」というと、どうしてこうも振りがなを付けたり、交ぜ書きにしたりという手抜きで済まそうとするのだろう。

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2009/05/16

「各区」はなんと読む?

先月から疑問に思っていたこと。

各区 (意味はそれぞれの区、たとえば東京都下なら荒川区、板橋区、大田区...)

なんと読むのが「正式」であろうか?

候補は2つ。

かくく
かっく

類語を見ると
 各国 「かっこく」としか読まない
 各人 「かっじん」とは読まない
 各村 「かっそん」とは読まない
 各省 「かっしょう」とは読まない
 各党 「かっとう」とは読まない(もう少し葛藤があっても罰は当たらないぞ>ノーテンキな政党人)
 各方面 「かっほうめん」とは読まない

2字目の読みがKで始まる場合は「っ」になるかと思ったが、そう簡単でもない。
 各県 「かくけん」が主?
 各局 「かっきょく」が主? でも「かくきょく」とも言いそうな。

口語と言うか話し言葉では「っ」の方が言いやすいから「各県」も事実上「かっけん」と発音しているにしても、文字にする場合は「かくけん」が妥当だろう。

各科、各課、各期、各機、各個、各戸...悩ましい例はまだある。

一部で不評ではあるが便利なIM判定法(日本語変換で出てきたら正しい、あるいは広く通用すると判断)を使うと各区は「かっく」有利となる。

とはいえ、IMがまだFEPと呼ばれていた頃、大衆受けを狙って「えっか」で液化と変換しますみたいなのを売りにした製品があった(記憶に間違いがなければその後買収されて、いまはIMEと名前を変えている)から当てにはならない。

何を悩んでいるかと言うと、各区に「かっく」とルビを振ってあるのを見たから。そもそもルビ自体が「むづかしい漢字をやたら使ったために、そこからわき出たボーフラ」(山本有三)的な面を持つのに、気取って使った言葉の読みが誤っていたら目も当てられない。粛々を「せいせい」、脆弱を「きじゃく」、既出を「がいしゅつ」、巣窟を「すくつ」...と読むようなもの。いや、別に各区は難しい言葉ではないけれど。

読みの難しい語にだけルビふるのなら(その語を使う必然性がある限り)合理的だ。「写しん」「せん動」「き業」といった交ぜ書きは正気の沙汰とは思えない。

しかし、さして必要があるとも思えない「各区」にわざわざルビをふる理由があるのだろうか? しかも意味理解のための振仮名だ。「かくく」とすべきではなかっただろうか。

別にポリシーがあって「かっく」と振った訳ではなく、ワープロを使って振仮名をつけた結果だろうとは思う。だが、その無定見さが別のところで恥をさらしているのを見ると、だから総ルビはやめなさいと言ったでしょうとぼやきたくなるのです。

(正確には、先にそのブッ飛びの恥ルビに気付き、ルビ総点検をして「各区」にも引っかかった次第。少なくとも恥ルビだけは増刷分で修正されていることを願う。本物の堤防がアリの穴から崩れることがないことは承知の上で。)

ま、提案通り簡単な言葉に書き換えて、なおかつ総ルビもありえるから、どのみち「かっく」は残ったかもしれない。その場合はこれほど気にはならなかっただろうな。

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2009/04/05

漏泄も正しい

最近トラックバックした(リンクはしていない)ブログの別エントリーを読んでいたら、「漏泄」という言葉があった。

今は「漏洩」は「ろうえい」と読むのが一般的だと思うが、正しくは「ろうせつ」。で、「正しい読みを知ってます」をアピールしようとして「漏泄」と書いたのかな、と思ってしまった(脆弱と変換できないので危弱と書くみたいに)。

念のため辞書を引いたら「漏泄」とも書くのね。知らんかった。

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2008/12/19

燃えると焼ける

両者で「燃焼」を構成するけれど、意味は異なる。

「肉を焼く」とは言うが「肉を燃やす」とは普通言わない(焼き肉バイキングでの証拠隠滅を除く)。

「石油が燃える」とは言うが「石油を焼く」とは言わない。

「炭を燃やす」と「炭を焼く」では意味が違う。

「家を焼く」と「家を燃やす」はかなり近いが、微妙に違う。

「燃える心」と「焼ける思い」は相当異なる。

「燃える」はそのものの酸化現象だが、「焼ける」は単なる加熱でもよく、必ずしも酸化を伴わなくても構わない。これは物理化学の話。

さて、いま私は心の温度上昇を感じているが、これは燃えているのか焼かれているのか。

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2008/11/28

CMSカンファレンス雑感

セッションはほとんど聞けなかったけれど、暇な時間にカタログをぱらぱらとめくったので、その感想など。

ちなみにCMSとはContents Management System、つまりウェブサイトに載せる内容(コンテンツ)を管理する仕組み。ウェブサイトがシンプルなうちは単純なファイル管理で済んだが、大規模化すると更新作業が複雑になってくる。一口で言えば、それを簡単に済ませようというシステム。

小規模なら「詳しい人」に任せておけるけど、いつまでも名人芸に頼っていると、名人がいなくなった時に困ったことになる。それに、ウェブには詳しいが業務の内容に無頓着でも困る。そもそも「自称名人」をどこまで信用できるか、という問題もある。

さらに会社や官公庁などでは公開する内容について決裁承認を受ける必要がある。それも、いつ・誰が・何を見て承認したのかの記録が必要。そういう承認フローを組み込むことが求められるようになった。

で、いろいろな製品が出ている。操作の簡便性を売りにしたものから巨大サイトの運用をアピールするものまで。わざわざ静的HTMLでの出力を強調している製品もあった。「簡単」のレベルも相手によってずいぶんと変わってくる。

基調講演で言われていたと思うが、CMSは自動車と置き換えることができる。トラックだってスポーツカーだってセダンだって軽自動車だって四輪駆動だってバスだって、みんな自動車。さらに同じ「乗用車」でも快適性を求める人と経済性を求める人とでは選ぶ車種は変わってくる(だろう)。そこを意識しないで「自動車」という言葉で会話を続けるととんでもない齟齬が生じる。

さて、パンフをいくつか見ていて目に留まったのが用語チェック機能。いわゆる機種依存文字のチェックをするのは当然(なのかな? JIS X 0213で解決したような... 音声ブラウザ利用者への配慮か)として、「不適切な語句」も検出すると言う。これが明々白々な差別語罵倒語不快語の類に限られるのか、たとえばお役所言葉も対象にするのか興味あるところ。

B2B(対業者)の会社なら、業務ページは専門用語だらけでも構わないが、たとえばIRページはそれではまずい。そういうチェックができたらウェブの日本語の品質は向上する。

あと意外にあるのは表記の不統一。それを固有名詞でやったら、これはもう誤りのレベル。世界的に名を知られた企業でもやってるんですね、これを。

ユーザーが辞書をカスタマイズできれば、理論的には各社の事情に合わせた用語チェック可能になるけれど、そもそもどんな用語の不統一があるかを把握していないと画餅に終わるでしょうね。

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2008/11/19

午前8時の太陽

勢いのあることの比喩として「午前x時の太陽のように」と打とうとして指が止まった。何時だったっけ? 10時か?8時か?

出所は毛沢東語録である。「世界はきみたちのものであり、また、われわれのものでもある。しかし、結局はきみたちのものである。きみたち青年は、」に続く部分。

木村恒久が雑誌『終末から』にグリコのマークをコラージュして引用していたのを覚えている。だが時刻は思い出せない。8時か10時。

ググってみると7,8,9,10と諸説見つかる。いい加減なものだ。

イメージとしては上に向かってグングンと昇っている様子だから、10時はさすがに遅いだろう。

そう思って悶々としていたところ、Skypeに60年代学生運動の経験がある恩師がログインしているのを見つけた。さっそくチャットで呼び出して質問。

ところが自信満々「それは午前零時」と珍説を披露なさる。センセ、白夜でもない限り午前零時に太陽は見えません。そう遠回しに注意しても「すべてこれからという比喩です」と譲らない。

だけど午前零時は午後十二時。文化庁も前日に属すると言ってますぞ(知財高裁で否定されたけど)。:-p

念のためググってみたが、午前零時説は見つからない。見つかるのは7,8,9,10時ばかり。

ああ、師匠老いたり。悲しみを抑え、失礼のないよう注意しながら「どうもありがとうございました。こちらの原稿には「午前8時の太陽のようだ」と書いておきます」と送信すると「自然科学者の頭の固さに驚きです」と。

最終的には「毛沢東語録」を見つけて確認することになるが(どなたかお手元にありませんか?)、どうやら「午前8時、9時」が正しいらしい

毛沢東語録

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2008/07/22

漢字漢語研究会(2)

日本語学会の掲示板で見つけた第96回漢字漢語研究会に出席してきた。

お目当ては桐生さんの「医療の現場における漢語専門用語の問題点」(当日の演題は「医療の現場における専門用語の問題点—漢語専門用語を例に 」)。

国語研究所の病院の言葉を分かりやすくする提案の調査が紹介された。

発表を聞いているうちに、新聞記事やウェブサイトを読んでいる時には見落としていたことに気がついた。患者と医療従事者が口頭でコミュニケートしている時の問題だ! もちろん病院ウェブの文言に応用はきくけれど、基本はオーラル。難しい字が読めないという問題ではなく、音で聞いて字が浮かばない/別の字を思い浮かべるために理解できないという問題。

そういえば、父に胃がんが見つかり、切除しようと開腹したら「開けてびっくり玉手箱」、なす術もなくそのまま縫合した時のこと。執刀医も予想外の事態に狼狽したらしく、家族への説明も専門用語使いまくり。「よんけーのいがんです」と言われて、訳が分からず「4K」とメモしたのを覚えている。同時に出て来たスキルスという言葉は知っていたので説明は求めなかったが、今あらためて「4型の胃がん」を調べると実に絶望的であることが分かる。

閑話休題。口頭の場合は同音異義語が問題になるだろう。「化学療法」が通じにくいのは「科学療法」と誤認しているためという可能性はないだろうか。「こうげんびょう」と聞いて、膠原病を想起できる一般人がどれほどいるだろう。光源とか高原を思い浮かべるのが一般的だろう。中にはコーゲン病と思っている人もいるかもしれない。まず字で書いて示すのが第一の取り組みだと思う。
文字の場合は、難読字と字面による誤解が問題になる。塞栓や譫妄はおバカ芸人ならずとも読めない人は多いだろうし、糖尿病を甘く見る人が多い(実際には進行すると失明したり手足の切断が必要になったりする恐い病気)のは、発表にもあったように、日常語的な解釈で分かった気になるからだろう。ただウェブの場合は、用語解説へのハイパーリンクという必殺技が使える(解説を読まない人もいるから、言い換えや概念説明も必要)。

医療現場で対面の場合、通じているかいないかは、少し注意を払えば分かるけれど、ウェブページの場合は臨機応変な調節ができない。

フロアからの意見で面白かったのは、造語パターンの影響。省略形は難易度が高いのではないかと。古い翻訳語も現代人には通じにくかろう。

同じ国語研の「外来語の言い換え」は評判が芳しくない印象があるけれど、この病院の言葉を分かりやすくする提案は有意義なので、是非滑らないでほしいと願う。

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漢字漢語研究会(1)

日本語学会の掲示板で見つけた第96回漢字漢語研究会に出席してきた。

お目当ては桐生さんの「医療の現場における漢語専門用語の問題点」(当日の演題は「医療の現場における専門用語の問題点—漢語専門用語を例に 」)。

この25日で契約を打ち切られてしまうけれど、ここしばらくとあるウェブ製作会社でウェブページの日本語の改善に取り組んでいた。きっかけは噴飯ものの誤変換(内臓電池、脅威的な価格、など)だったが、調べていくうちに専門語・業界用語も理解度を阻害する要因として浮かび上がって来た。とはいえ「難しい語」をどう定義するかが課題に。そんな時、読売新聞に「患者に通じない736語」という記事が載った。これだ!と思って国語研のサイトに飛んだものの(2008年3月時点で)何も情報がない。しかしアンテナの感度は上げておくべきもの。ほどなくして日本語学会の学会情報掲示板で「医療の現場における漢語専門用語の問題点」という発表を見つける。発表者は国語研の人。「どなたでも参加できます。」とあるのを幸いに早速申し込む。

世にある研究会の中には、参加自由を標榜しながらも実状は決まったメンバーだけというものがある。それでもアカデミックな世界は基本的に異邦人歓待だと割り切って図々しく乗り込んでみた。ただ仁義として質問なり意見なりは必ずすると決めて。

会場は早稲田大学社会科学部。早稲田大学のサイトを見ても所在地が判然としない。社会科学部はサブドメインを持っているのだが、学部所在地の記載を見つけられない。学部案内を読んでいくと14号館に移ったと書いてあるが、これでは学外者には通じない。施設案内は「準備中」。学部案内をダウンロードしてみても所在地は見つからない。

大学のサイトに戻って調べ直す。交通アクセスを見ると主立ったキャンパスは6つ。おそらく早稲田・戸山・大久保のいずれかであろう。苛々しながら探すうちに「インフォメーションスクエア」を発見。そこで尋ねることにして「 場所はこちらから」(いわゆる click here syndromeだ)をクリックすると早稲田キャンパスのキャンパス内案内図にリンクしていた(キャンパス内案内図は交通アクセスのページの最下部にひっそりとリストがあった)。もしやと思って探すと社会科学部も載っていた。やれやれ。

要するにユーザビリティに問題があるということ>早稲田サイト

さて最近の大学は学外者の入構に対してうるさいところが多いのだが、早稲田は実にオープン。道を歩いているといつの間にか構内に入れてしまう。会場は14号館の10階。やたら学生に対する注意の貼紙(「静粛」「ホールをサークル活動の練習に使うな」等)は多いものの、誰何されることなくエスカレーターに乗れた。ところが6階でエスカレーターがなくなる。エレベーターもあったが、わずか4階なので階段で登る。10階まで来ると、なんと「関係者以外立ち入り禁止」の高札。フロア案内図を見ると会場となる部屋は建物の対角線上。用心して8階まで戻り(9階にも高札)、反対側の階段を使って10階まで上がると、やはり「関係者以外立ち入り禁止」。しかも「イスラム人口問題研究会」の貼紙はあるが「漢字漢語研究会」の案内はない。だが幸いにも1060号室は目と鼻の先。思い切って入室すると、会場係の学生さんがいて一安心。聞けば社会科学での開催は初めてらしい。

なんか余談が長くなってしまったので、本論は別項で。

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2008/06/29

「日」の字に一画足して

今日の朝日新聞2面「ルポにっぽん」に出てくる砂子小学校(門真市)の授業。日の字に1画加えると別の漢字が8個できる、という問題を生徒に与えている。

すぐに思いつくのは、目、白、田、甲。しばらく考えて申。これで5つ。堪え性がないので辞典を見ると由も該当。

あと2つが出て来ない。

続きを読む "「日」の字に一画足して"

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2008/04/06

手紙の暴動

大修(たいしゅう)館の『かなり役立つ日本語クロスワード』は、一部が見本として公開されている。

結構頭を使う問題もあるのだが...

タテのカギ 5 手紙の暴動で
「手紙の暴動」と書かれている

電子メールなんか使っていると、紙と墨を使え!とラダイットが押し掛けて来るのだろうか。

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2007/12/05

死のワクチン

来週、インフルエンザの予防接種がある。予診票に記入して来てほしいというので取り寄せ、裏面の説明を読んで固まった。

写真:「インフルエンザによる重症化や死亡する効果が期待されます」と書いてある。


承諾のサインをしたら、何があっても文句は言えないのだろうか。

まてよ、重症化もせず死にもしなければ、「金返せ、ゴルァ!」とねじ込めるのだろうか?(「スミマセン、スミマセン」とあっさり殺されたりして)

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2007/12/02

カルパインとCANP

勤め先のブログに原稿を書くことになった。テーマは言葉(に関係する会社のサービス)。

筆が進まないので「その他」カテゴリで暖機運転をしている。その一環として「言葉は仲間(敵味方)を識別するもの」で一連の記事を書いた。もっとも分かりやすいのは政治や宗教の分野だが、あまり具体的に書くと地雷を踏む可能性がある。

そこで多少は勝手の分かる自然科学に題材をとることにした。真っ先に思い浮かんだのはカルパインとCANP。両者は同じものなのだが、独立して研究を進めたグループがそれぞれに命名したため、ながらく一物二名の状態が続いた(実際には派生する言葉にも続々と別名——カルパスタチンとCANPインヒビターとか——が)。

もっとも、この辺の事情も当事者からすれば面白おかしく書かれたくはないだろうし、なにより事実関係の間違いがあっては失礼になる。

そこで、まず軽くググッて見たが、意外にも一般的なカルパインの説明は少ない。wikipediaにさえない(誰か書いてください)。そんな中で見つけたのが臨床研(東京都臨床医学総合研究所)の酵素機能制御研究部門のページ(フレーム構造になっているのでトップページから「研究内容(より専門的)」をクリック)。

当時の鈴木研ではカルパインのことをCANP、calcium activated neutral proteaseと呼んでおり、商売敵であった京都大学の故・村地孝先生(Murachi Awardの所以の先生です)のつけた「カルパイン」という名称は、戦時中の日本の「ベースボール」のようにタブーとなっていました。そのいきさつについては、涙無しでは読めない鈴木先生の幻の名著「カルシウム依存性プロテアーゼ研究の動向:第一回 研究の幕開け−東西問題のはじめ」及び「第二回 カルパインの構造決定と東西問題」(細胞工学Vol. 10 (1991), No. 7, pp545-551及びNo. 9, pp719-727)に詳しく書かれています(興味のある方は是非ともお読みください!)。結局、東西ドイツの統一あいなった1990年の翌年の、ミュンヘンで開催された国際プロテオリシス学会(ICOP)において、「カルパイン」という名前に統一されました。名付け親の村地孝先生は、その直前に急逝されてしまいました。

これぞ探していた記述。熾烈な競争があったこと、相手陣営の用語はタブーだったこと、現在はカルパインに統一されたことが要領よくまとめられている。

そして、村地先生への追悼企画として掲載された「カルシウム依存性プロテアーゼ研究の動向」がこのように評価されているのが我がことのように嬉しかった(村地先生は月刊「細胞工学」の編集顧問)。

学生時代、「蛋白質核酸酵素」を拾い読みしていた私はCANPしか知らず、体を表す良い名前と思っていたが、ほかでもない「あの」カルシウム依存性中性プロテアーゼを指すには、固有の名前が必要だったのだろう(カルパイン以外にそういう酵素があるかは知らない)。「パイナップルビジネス」とか「ペリサイエンス」とか、実に造語の巧みな方だった。

うーん、一般受けしない話になりそうだ。やはりiLinkとFirewireにしておこうか。いや、フロッピーディスクとフロッピーディスケットにしようか。

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2007/06/23

伝法な、とは

先日、オフラインミーティングがあった。都電を借りきって早稲田から三ノ輪まで行き、そのあと浅草へ。

伝法院通りを歩いている時に「伝法な」という形容があることを思い出した。「論座」に連載されていた山本一力の「欅しぐれ」で見て、文脈から「ぞんざいな」くらいの意味だろうと理解して、調べないままにしていた言葉。

同行者に振ってみたが、残念ながら知らなかった。

数日経ってそれを思い出し、おもむろに辞書を引いてみた。

「1.粗暴で無法な振る舞いをすること。また、その人や、そのさま。」
これは予想通り。意外だったのは
「3.無料見物・無銭飲食をすること。また、その者。」

その語源は「江戸時代、浅草寺伝法院の寺男が、寺の威光をかさにきて、境内の見世物小屋や飲食店で無法な振る舞いをしたところからいう。」とのこと。

浅草の伝法院に関係のある表現だった。

ちなみに先の『欅しぐれ』はいろいろ蘊蓄があって楽しめた。著者はなかなかの苦労人らしい。後にコラムで、編集者から作家デビュー直後に「調べたことの九割五分は捨てて」と忠告されたことを書いている。95%捨ててもあれなのだから、いったいどれだけ調べたのだろう。

続きを読む "伝法な、とは"

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