アクアマリンふくしま(正式名称は「ふくしま海洋科学館」)では月に1回、福島の海で獲った魚の放射能を測定する「調べラボ」(「たべらぼ」と読む)を開催している。
アクアマリンふくしまでは「調(た)べラボ~いわきの魚を食べてみよう~」を開催します。福島県で漁獲される魚をみなさまの目の前で捌いて、放射性物質量を測定することによって、現在の福島沿岸の魚介類の安全性を理解していただくイベントです。
そして「いわきの魚を食べてみよう」という副題が示すように、モニタリングの結果から安全性が確認され試験操業の対象となった魚介類は試食できる。1月はアンコウ!
というわけで17日(日)にいわき市まで行ってきた。去年の夏に駆け足で回って消化不良だったところをじっくりと見たくもあった。今回はお酒をいただこうということで列車を選択。
常磐線特急「ひたち」の色覚バリアフル
JR常磐線の特急「ひたち」は全席指定である(自由席というものがない)。特急券を持たないで乗車した場合は、頭上に赤色灯のついている席に座り、車掌から指定券を購入することになる(乗車前に買うより高くなる)。「空いているのは赤色点灯の席」というのはアフォーダンスに反するように思われるかもしれない。実際そういう声はあったし、私もそう思っていた。しかし座席指定券を購入して乗車してみると、券面に印字された番号の座席が緑色点灯なのは実に当然であった。
ところでこの「ひたち」の乗車システムにはもう一つ批判があった。それは指定券が発行済であるかないかが天井のランプの色だけ、しかも赤と緑という日本人男性の約5%が識別できない組み合わせで表示されていること。色覚バリアフリーの思想においては色のみに頼った区別は好ましくないとされる。インターネットエクスプローラー(IE)とかファイアフォックス(Firefox)あるいはサファリ(Safari)、クローム(Chrome)といったウェブブラウザにおいて、標準の設定ではハイパーリンクの張られた文字列は色が異なるだけでなく下線が引かれていることにお気づきだろう(標準では未読が青、既読が赤であるが、その色を変えるだけならまだしも、下線を表示させないようにする**Deleted for the Courtesy Reasons**な〈デザイナー〉が存在するのは実に嘆かわしい)。これはWorldWideWebを開発したティム・バーナーズ=リーの卓見らしい(色覚バリアフリーという概念の提唱者は不詳)が、現在のカラーユニバーサルデザインについては色覚バリアフリーのページなどを参照されたい。

「色だけで区別といえば交通信号がそうではないか」という声もあろう。経験者によると色ではなくて左右の位置で区別しているという(そのためふだん横に並んでいる信号になれた人が雪国のように縦に並んだ信号機に遭遇すると困惑する)。それはもっともに聞こえる。ある種の充電器では点灯部位が同じで色だけ変わることで充電終了を知らせるが、そうではないから点灯部位で判断はできそうだ。それではここで座席の背もたれについている説明を見てみましょう。赤が左で緑が右になっていますね(交通信号の配置を思い出せる人はいますか?)。それでは天井のランプの配置はどうでしょうか。

これに気づいたのは帰宅して写真を整理している時だったが、「こんなバカなことがあるのか」と開いた口が塞がらなかった。そしてしばらくして気がついた。私が乗ったのは下り列車。上りなら座席は180°回転するので説明と一致する...あれれ、通路反対側ではランプの並びが逆ではないか。窓側が緑という配置なのだろうか?
ともあれ、頭上のランプは緑という快適な旅で泉駅に到着。駅そのものは3度目だが列車から降りたのは初めて。橋上駅舎は改装したばかり(といっても2005年か?)らしくとてもモダンな印象だが、ホームは昔ながらの常磐線の趣がたっぷり。
アクアマリンふくしまへ
泉駅からアクアマリンふくしまへはバスも出ているものの、あまり便利ではないので南口からタクシーに乗る。車内に「プラズマクラスター」云々というステッカーが貼ってあるが気にしない。料金メーターは順調に上がっていき、正門前、タクシー降り場の寸前でもカチリと上がって2130円。眉ひとつ動かさず現金で支払って降車。荷物をコインロッカーに収め身軽になって入館。料金は1800円。
今回は「縄文の里」はスキップし、まっすぐ本館へ向かう。海獣(印象としては怪獣 ^^; )の咆哮が聞こえてきたので記念に一枚(音無し)。
「調べラボ」は1階のアクアルーム1で開催されていた。廊下に面した側に流しと調理台があり、そこで獲ってきた魚を測定用にさばいていたのは富原さん。鮮やかな手つきとよく通る説明の声に漁師さんか魚屋さんかと思ったら獣医さんでした。 私の撮った写真では雰囲気が出ていないので、ボランティアスタッフの方の写真を拝借。左端の女性は取材に来た福島テレビのスタッフ、その前で熱心に見入っている女児は常連さんらしい。
ああ、写真は「第九回 調べラボ~いわきの魚を食べてみよう~」にたくさん(私の撮ったぼけたのも)。そしてドンコの身を測定機に入れて後は待つだけになった11時からはお目当てのアンコウ汁が振舞われる。福島テレビがレポートするさまが面白かったのでこっそり撮影。そのせいでもないだろうが、おかわりしてもいいのかなぁとウロウロしていたら福島テレビに取材を依頼され、テレビカメラに顔を晒すことに。たとえ相手がテレビであろうと「撮られたら撮り返す」を実践。
レポーター「今日はどうして来られたのですか」私「アンコウ汁を食べられると聞いて」
レポーター「参加してみていかがでしたか」私「アンコウ汁が美味しかった」
レポーター「ここに来て、来る前と考えが変わりましたか」私「全然変わりません」
後から思えば、そこで後ろに並んでいる本(『はじめての福島学』や『放射線被曝の理科・社会』『語りあうためのICRP111』『原発事故と放射線のリスク学』『知ろうとすること』など20冊)の中から『スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか』をサッと取り出し、「この本を読んでいましたから」とやったら様になっただろう(下衆の知恵あとから)。実際問題、汚染は基準値をはるかに下回り、その基準値からして1年間食べ続けても追加1mSvに達しないことを確実にする用心深いもので、なおかつ追加1mSvを超えたからといってなにか悪い影響が出るはずもない(なにか起きるとすれば別の不摂生の影響の方が大きかろう)。「美味しい魚だ」とニコニコしていることの好影響の方が強く出るだろう。
ちなみにこの本はチェルノブイリ事故の越境汚染を食らったスウェーデンが、大混乱の果てに得た教訓と対策をまとめたもので、訳者の「本書に見られるような危機意識と万全な災害対策が日本でもきちんと共有され、適切な準備がなされていれば、福島第一原発事故のあとの対応は異なったものになっただろうと思わずにはいられません」というあとがきが印象的。原発を再稼働するなら「事故は起きないように努力はするけれど、もし事故が起きてもこういう対策があります」を示すべき。そして同じ失敗を繰り返してはいけない。
なお、2月13日11時半からの「サタふく」で放送されるらしいが、私の場面はカットされていることでしょう。県外から見る術もないし(どこかで見られるかな?)。もし映っていたら教えてください。
おいしい水族館

さすがにアンコウ汁一杯では腹が満たされないし、むしろ食欲が刺激されてしまったので、いったん抜けて、かねて予定の寿司処「潮目の海」HAPPY OCEANSへ。水族館で寿司を食うって許されるのだろうか? という気もするが、クラゲ水族館として有名な加茂水族館のレストランでもエチゼンクラゲ定食やクラゲラーメン、クラゲアイスを出しているし、許されるのだろう。もちろん館長には持続可能な、科学的に管理された資源利用こそ海洋のワイルドミートクライシスを解決するかぎであるという明確な考えがある。

すぐ脇にミズクラゲを眺めながら立って食べるカウンターがあったのに気づかず、反対側の椅子のあるスペースで握り寿司と地酒「又兵衛」をいただく(本体価格の合計1325円に課税した額1431円は表示されている税込価格の合計(1030+400)より1円高くなるので分けて注文するのが吉)。「潮目の海」の大水槽を泳ぐ魚を眺めながら、一緒に来る予定だった人のことを想ってちょっとしんみり。
ほろ酔い加減で展示を見て回り、トドやアザラシ、チンアナゴを愛でながら1階に戻ってくると今度は「おいしい水族館「アクアクロス」」にトラップされる。こちらではくじらフライ(単品)とスーパードライ。改めて確認できたことは、記憶にある鯨肉の味は生姜醤油の味であったということ。

その足でアクアルーム1に戻ってみると、不覚にもアンコウの解体は終わっていた(上記togetterに動画がある)。しかし測定しなかった魚がブツ切りにされており、わさび醤油も用意されて食べ放題に(一般の客には出さない賄い的な物をツイッターの誼で分けていただいた)。途中でアニサキスがいるかも、という話になり「よくかんで食べましょう」になったものの、幸い潜伏期間を過ぎても異状なし。
しゃぼん玉男

14時を回ったので帰りの列車が気になり始め、「もういっぺん来るかも」とバックヤードツアーにも申し込まず、館内をサッと巡り
(シーラカンスのコーナーにも足を運んだ)、外に出てクウェート・ふくしま友好記念日本庭園の奥にある水生生物保全センター(CAL)でデビュー前の魚達が養生している水槽を眺めて退館。土産物を買うなら
ら・ら・ミュウが良いと聞いたので、正門を出て直ぐに右へ。途中はA型バリケード
(これの名前を調べるのに手を焼いた)が並べてあって工事中のように見えたが、警備の人に聞くと通り抜けられるというので進んでゆくとレンガを敷き詰めた広場になり、そこで大きなしゃぼん玉を飛ばしている人が。声をかけて写真を撮らせてもらった。

ら・ら・ミュウ
ら・ら・ミュウは正式には「いわき市観光物産センター」といい、大きく「飲食ゾーン」「物販ゾーン」「おさかなゾーン」に分かれている。ここで「めひかりクッキー」「会津みちのく酒紀行」「かつおチップス」を購入。ついでにインフォメーションで泉駅へ行く方法を尋ねると、バス時刻表付きの地図に蛍光ペンで描き込みながら丁寧に教えてもらった(ただし、印をつけてもらったバス停は逆方向のいわき駅行) 。
バスの来る時刻には余裕があったので、ふと2階に上がってみると「いわきの東日本大震災展」をやっていた。3年前に開催し、当初は1年間の予定であったものが長期開催されているという。原発事故が注目されがちだが、福島県も津波被害は激しい(ずっと南の千葉県でさえ死者が出ている)。会場中央に何気ないように置かれていた大きなぬいぐるみは土台だけが残った住宅跡に置かれていたという。「欲しかったら持って行っていいよ」といったという主人の言葉に、流されたのは家だけではないことがうかがわれた。
17日に「アクアマリンふくしま」へ行ったついでに土産物を買おうと「ら・ら・ミュウ」(いわきの物産銘品プラザ)に寄ったところ、2階で震災展をやっていた。被災者から譲り受けたという大きなぬいぐるみが印象的(持ち主については明示的な記述はなかったけれど、津波で亡くなられたと推測)。
Posted by 細川 啓 on 2016年1月19日
泉駅はるかなり
バス停に行くとバスが来るまでにはまだだいぶあったので、駅方向に歩くことにした。しばらく歩くと「支所入口」。これはアクアマリンふくしまのサイトに案内されている停留所。また少し行くとアクアマリンまで徒歩10分という大きな看板が。
次のバス停に着くたびに時刻を確認し「まだ行ける」と歩き続ける。バス通り(県道15号線)だから逸れることはあるまいと思ったのが大間違い。小名浜消防署前で15号線から逸脱、途中で怪しみガソリンスタンドで道を聞かなければ危うくそのまま陸前浜街道を西進するところであった。泉町八合のESSOさん、ありがとうございました。
あの交差点、なんか嫌な感じはしたのだ。それまで順調に現れていたバス停が急に途絶えるし(そこで引き返せよ)。でも、地図を見てもらえば分かると思うが、右上方から15号線を辿ってくれば左下方へ進みたくなるもの(バス停をチェックするため左側を歩いてきたから、同じ道を2度横断することに抵抗もあった)。とはいえ、リアルタイムであれ事前であれ、地図の確認は大切と何度目かの反省。晴れていたのがせめてもの救い。いや、雨や雪なら歩くなんて無謀なことをせずバスを待った...過去の経験を鑑みるに、そうとは言い切れないな。
ともあれ、やや予定より遅れたとは言え無事に泉駅に到着。時刻表を見るとまもなく上り特急が来る。券売機の操作は朝と同じなので滞り無く乗車券と特急券を購入し、余裕で17時32分発特急「ひたち」24号に乗り込んだ。
終わり良ければすべて良し
帰りの旅の友は「ら・ら・ミュウ」で買い込んだお酒とおつまみ。
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