象牙と象の密猟と
「ビッグイシュー日本版」にコラム「ノーンギシュの日々」を書いている滝田明日香さんが一時帰国して精力的に講演会を開いている。その一つ「アフリカケニアで野生動物と生きる~滝田明日香さんを囲む市民の集い」に参加した。会場は久しぶりの四谷ひろば(旧・新宿区立四谷第四小学校)。大雨にもかかわらず体育館には百人近い聴衆が。
5月末にNHKのクローズアップ現代「追跡 アフリカゾウ密猟とテロ」に出演された効果もある? (なぜか「動物園クライシス~ゾウやキリンが消えていく」と勘違いしている人もいたようだが)
受付で「ボランティアをされましたか?」と聞かれたが、きっぱり「いいえ」と答えて資料代を払う。もう基金会員もやめちゃったしね(寄付金控除を受けるため)。
お話は、イヌを使って家畜を獣害から守る仕事から始まり、現在のアフリカゾウ保護まで。野生動物が密猟されるのは、その肉(ブッシュミート)が珍味というか高級食材というか、とにかく市場で良い値で売れるからというのに最初の驚き。現金収入は魅力なのだ。
で、本題のアフリカゾウ。密猟のために絶滅の危機に瀕しているという。なぜ密猟されるのか? 象牙が高値で売れるから。ただし、ここから話は少々複雑になってくる。
整理してみると、こうなる。
- 現地では開発に伴い野生動物との接触が増え、獣害が問題になっている(特にそれまで象の通り道だったところに作った農場は侵入されがち)
- それゆえ現地農民はアフリカゾウに好感を持っていない
- アフリカゾウも人間を「危害を加えてくる対象」として敵視
- アフリカゾウから採れる象牙は(ホワイトゴールドと呼ばれ、闇市場で)価格が高騰し続けている
- 日本と中国が大消費国として象牙需要を支えている
- 各地の反政府武装勢力が資金源として象牙取引に着目
- 今では密猟には自動小銃が使われるありさま
- 密猟監視人との間に銃撃戦も起こるようになり「完全に戦争状態だ。」
- アフリカゾウを一頭倒せば年収に匹敵する現金が手に入るので密猟組織の手先になる現地人も
- 経験豊富なリーダーを失ったアフリカゾウの集団は、未熟なリーダーのもと、子象を守りきれず、また農民との衝突を回避できず、ますます危機的状況に陥る
つまり、象牙取引が完全になくなっても、農民とアフリカゾウの間に軋轢があれば密猟は止まらない。しかしながら、現在は象牙取引がおいしい商売であるため、密猟が過剰殺戮になっている。また、現地農民とアフリカゾウの関係が修復されても、象牙目的の密猟をなくすことはできない。そしてこれは個人的な推測だけれども密猟組織は協力的でない現地住民にも銃を向けるようになるだろう。これは容易に解決しそうにない。
また、非常に根本的な問題として、アフリカゾウって絶滅したら困るの? に対する答えも必要。農場を荒らされている側からすれば、いなくなって、おまけに現金まで手に入るなら一挙両得と思っても不思議ではない(絶滅させたら、象牙による収入は絶えるけれど、それはまた先の話)。一方で、イスラム過激派の資金源を断つためにアフリカゾウを絶滅させてしまえ(たしかに象牙取引は不可能になる)という乱暴な考えが出ないとも限らない。麻薬ではこの考え方は実行に移されていて、ケシ畑の破壊が行われている。
保護キャンペーンに協力しているヒラリー・クリントンの本当の関心はアフリカゾウの絶滅だろうか? イスラム過激派対策が真の狙いというのは穿ち過ぎか。中国を牽制できる話題だから乗り出したのではないと言えるだろうか。アンケートに「USAの思惑も真意がどこにあることやら」と書いたのはそういうこと。そっちの片がついたらサッサと手を引いたりしないだろうか。現地の親米的政権が〈合法的〉に乱獲を始めてもだんまりを決め込む可能性は?
この点、滝田さんにとってアフリカゾウを保護し絶滅から守ることは自明のようだ。もちろん、それは世界でも公式の常識である。でも、そういう常識を共有していない人が相手なのだから。(滝田さん自身は過激な反捕鯨派のような「アフリカゾウが第一」論者ではなく、ミツバチフェンスのように人間にも利益のある共存策を探られている)
取り組む相手は、「象牙取引の規制が厳しくなれば、値段は高くなる」と算盤を弾くような人間なのだ。その発想に従って密猟者は〈増産〉に、販売者は在庫の確保に、消費者は駆け込み購入に精を出す。講演に感銘を受けた聴衆が「私は象牙を買わないようにしよう(それまでだって買ったことはない)」と決意したところで、ほとんどなんの効果もないだろう。象牙をありがたがっている人に諫言しても「大きなお世話」と返されるのが落ち。幸か不幸か「これは合法象牙です」に対しては、違法象牙がロンダリングされているため、合法取引が密猟の後押しをしているという再反論が可能なのだが。
日本国内に限って言えば、象牙の用途は印鑑や根付といった小物であり、人工象牙など代替品の開発や印鑑文化の衰退(期待するのはまだ早いか?)によって需要は減っていくのではないかと希望的観測。問題はイケイケドンドンの最中にある中進国ではないだろうか。経済的に成功したエネルギッシュな彼らは〈ステータスの象徴〉を求める。それは希少であり高価でなければならない。「このまま消費すれば絶滅してしまうから」という説得はブレーキではなくアクセルになってしまいかねない。もっと相応しいと思えるものを提供するか、「象牙を持つのは格好悪い」というような文化を生み出すか。
アフリカゾウにRIを注射して、象牙を標識してしまってはどうだろう。放射能象牙はトレースが容易になるし、なにより消費者の心を冷やすのではないだろうか。USAでは放射能の検出されない酒は販売を許されないのと同様に、放射能のない象牙は取引できないようにするとか。弱いガンマ線なら象への影響も少ないだろうし。
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