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2014/04/13

『いちから聞きたい放射線のほんとう』

著者ご本人が書く書く詐欺とおっしゃっていた放射線のやさしい本が3月に刊行された。

小峰公子(私は存じ上げないが、日本のミュージシャン、歌手、作詞家だそうである)が質問をし、それに菊池誠(大阪大学教授)が答えるという体裁で、22のテーマについて解説している。

挿絵はおかざき真里。小峰さんは「女子のこころをぎゅうっとつかんで離さないおかざき真里さんのステキな絵」と書いているけれど、私はおかざきさんというと電球をまず思い出す。w(しかし、あのタッチを予想して開くと裏切られます)

ところどころに変な間違い(たとえばこれとかこれもあるけれど、物理の時間は眠かったと述懐する小峰さんの疑問を中心に説明を進めているので、高校物理なんて忘れたどころか習ったかどうかも定かではないという人にも取っ付きやすいだろう。

むしろ高校レベルの理科ならマスターした人間には、周期表の意味とかで感心されると、「なるほど、この3年間、話が通じなかったわけだ」と逆の意味で目から鱗が落ちる思い。多くの人はたとえば「セシウムの吸収を抑えるには農地にカリウムを撒けば」とか聞いても周期表とは結びつかず、なんか難しいカタカナが飛び交ってるくらいに思っていたのか。「セシウムの沸点は670℃だから焼却炉で気体になる」なんて、アルカリ金属の性質を知っている人間なら吹き出すような知ったかぶりが大手を振って拡散するわけだ。驚いたことに、念のため検索したら今年の3月になってもなおキーフレーズ「セシウムの沸点 641℃」「ゴミ焼却場 約850℃」なんて書いている人がいた。しかも4月からは大学の准教授。ご丁寧に沸点も間違えている。ところがこういうことを「あなた、たまたま忘れているだけでしょ」というつもりで指摘すると「知識をひけらかす人は嫌い」みたいな斜め上からの反応が返ってくる。「アルカリ金属」なんてまた難しい言葉を持ち出して煙にまこうとしている!と本気で怒っていたのか。

先日、『リスク理論入門』を再読していたところ、「どんなに小さいリスクであっても,便益が全くないならばあえてそれをとる必要はない。」とか「ある人がリスク対策に1日1,000円支払っていたとして,「だから,もう1,000円払えるはずだ」という議論は成り立たない。」というフレーズが目に飛び込んできた。東京電力1F事故後、幸いにも今回は汚染が比較的軽微(今も避難生活を強いられている方には大変失礼な表現なのだが、いくつもの僥倖が重なって、想定できる最悪の汚染より軽くすんでいるのは事実)で済んだにもかかわらず、到底受け入れ難い汚染を被ったかのように主張する人々がいる。その人達にも三分の理はある。いかに軽微であろうと(ここで注意したいのは、声高なのは福島県からの避難者よりも、東京など遠隔地の消費者あるいはそれを代弁しようとする人々であり、問題にされている〈汚染〉は、たとえば食品なら国が定めた安全基準100Bq/kgをはるかに下回る水準であること)、それは全く便益のない、進んで引き受ける義理のないリスクであり、天然物により人体が約6500ベクレルの放射能を持っているからと言って、新たに放射能を取り入れなければならないいわれはない。

しかしながら、では放射性セシウムを1ベクレル(Bq)でも取り入れたら癒しがたい傷を負うのかというと、それも大袈裟だし、事実に反する。それについて本書ではこう書いている(p.116)。


セシウム137なら、ざっと7万5000ベクレル食べると預託実効線量が1ミリシーベルトだと思っておけばいいよ

基準ぎりぎり(100Bq/kg)の食品なら750kg食べてようやく到達できる量。実際に市場に出回っている農産物ははるかに汚染が少ないので、その数倍から数十倍を食べなければ7万5000ベクレルにはならない。それだけ食べてもなお、一般に便益のない被曝として許容されている年間1ミリシーベルトに収まってしまう(ちなみに日本人の平均コメ消費量は年間60kg以下。なお、100Bq/kgという基準値はストロンチウムがセシウムの1/10あるという仮定で決められているし、セシウムも134と137の合計など計算の根拠が異なる)

「だから,もう1,000円払えるはずだ」なんて乱暴なことは誰も言っていない。この比喩で言えば6500円のリスクが6510円になったようなもの。「だから大したことはない」は、加害者(東京電力)が言ったら非難に値するけれど、第一に文句をいう権利があるのは農地を汚染された生産者であり、必死の努力で汚染農産物の市場流通を食い止めた関係者。...というようなことは本書には書いてないから間違えて出版社へ文句を言わないように。

閑話休題。共著者の小峰公子さんは郡山市にご両親の住まいがあったので、除染にも立ち会っている。決して安全圏から高みの見物で思いつきの質問をしているわけではない。シンチレーションカウンターを手に、庭の表土を規定の5cm剥いでも測定値が下がらないので「あと1センチ削ってみて」と頼んでやってもらったところ「ぐっと下がった」という経験をお持ち(p.174)。世の中には測定をしないで無闇に恐がり見当はずれな〈対策〉をとっている人もいるが、今は自治体でも線量計の無料貸し出しをしているのだから、心配ならまず測ること。よく「放射能は目に見えず、味も匂いもしないから」と恐がる人がいるけれど、適切な測定機器があればこれくらい見つけやすいものもない(特にγ線を出すセシウムのような核種は)。微量測定に使われる放射免疫測定(ラジオイムノアッセイ)は放射能を利用するゆえ感度が高く、開発者はノーベル賞をとっている。

...というような知識はなくても読みやすいことでしょう。自分が当たり前と思っていたことを、それを知らない人に説明するというのは実に難しい。菊池さんが小峰さんの質問力を讃えていたように、いじけず臆せず問い続けたことで、今までの解説書に満足できなかった人の理解の緒になったのではないかと思う。ツイッターでの感想の一部はtogetterにまとめられている。

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2014/04/08

今年もやります「ふくしまの話を聞こう」

「原発事故下で福島の人々はどのように暮らしているのか」 遠く離れたところで空想で騒いでいても仕方がない。善意のつもりの言動が被災者に不利益をもたらしたら本末転倒。現地の話を聞こうではないか。こうして始まった「ふくしまの話を聞こう」は、今年三回目を開催します。

テレビユー福島の大森真報道局長と「福島のエートス」安東量子代表に加え、旅行会社HISを口説いて行くなら今だっぺ!いわき 東北応援ツアーを実現させた当時の高校生からも「震災からの3年間、福島でこんな風に暮らしてきた」を話していただきます。

少し小振りにし、その分参加費を上げたにもかかわらず、お陰さまで満席となりました。会場に入れない方はUstream中継を予定していますので、そちらでご覧ください。

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