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2013/11/08

低線量被曝の影響

低線量被曝の影響の捉え方として妥当なのは次のうちどれでしょうか。

1)どんなに少ない線量の被曝でも、その影響は微小ながらも全員に確実に出るので避けなければならない
2)どんなに少ない線量の被曝でも、そのためにがんで死ぬ人は出るので避けなければならない
3)どんなに少ない線量の被曝でも影響が出るというのは間違いであるので心配する必要はない
4)どんなに少ない線量の被曝でも影響が出る可能性は否定しきれないが、上回る利益がある場合は許容される

解答と解説


4)の「影響が出る可能性は否定しきれないが、上回る利益がある場合は許容される」が妥当です。

この出題では今までの「正しいもの」にかえて「妥当な」を尋ねました。「正しい」には、「科学的に正しい」と「政治的に正しい」とがあり、時に矛盾するからです。

1)× 低線量被曝の影響は確率的に現れるので「全員に」と「確実に」が誤り
2)× 確率の問題なので可能性はあるけれど、現実問題として「どんなに少ない線量でも」が考慮されることはない
3)× 低線量ならば悪影響は出ないと考える人もいるが、政策的な合意は得られていない
4)○ 医療上の診断・治療に放射線が用いられるのはこの考え方に基づく

予想される危険を上回る利益が期待できる場合は被曝は許容されます。逆に言えば、利益のない被曝は極力避けるべき。

利益のない被曝は避けるべきとはいえ、0にすることは難しいので、自然放射線に加えて1ミリシーベルト以内に抑えようというのが国際的な放射線防護の考え方。基準になる自然放射線の量は土地によって異なることに注意しましょう。絶対的な基準ではないのです。ですから、たとえば東北地方自然放射線は比較的低く0.02マイクロシーベルト/時前後)の人が山陽地方(自然放射線は比較的高く0.1マイクロシーベルト/時前後)へ行ったからといって、物忌みするように放射線を避ける必要はありません。ロンドンはさらに自然放射線が強い(0.251マイクロシーベルト/時≒2.2ミリシーベルト/年)わけですが、それでも放射線に気を使う必要はありません(そもそも行きの飛行機で5マイクロシーベルト/時被曝します)

原発事故による被曝が忌避されるのは、被曝を正当化する利益がないからです。それは通学路を制限速度を超えて走る自動車への怒りに似ているかもしれません。制限速度を守ったからと言って事故が絶無になるわけでもなく(件数は減り、被害規模も軽くなりますが)、かといって自動車通行止めにすると不便さが耐えがたくなる。妥協の結果として通学時間帯は住民に限り制限速度以下での通行を認めるようになるわけですが、時速で4キロメートル超過した自動車を(見過ごせば将来の事故の芽になるかもしれないとはいえ)取り囲んで運転者を引きずり下ろして土下座させるのはどうでしょうか。「危ないじゃないか」と怒ることは正当ですが、死傷事故が起きたのと同じ怒り方をするのは妥当ではないのです。

出題意図


「カリウム40は自然放射線だから話が別」と頑張る人でも、X線CTや消化器造影が人工放射線であることは否定できない。というよりも、年間1ミリシーベルトの裏には、「予想される障害を上回る利益(たとえば病気の発見や治療)があれば1ミリシーベルトを超えて被曝しても構わない」という考え方がある。医療における過剰被曝という問題はあるし、被曝線量低下の努力は続けられているのも事実だが、健診における被曝で得られる利益が「あるかないか分からないがんの発見」であることを考えれば、「微少な被曝も全力で避ける」ことの無意味さが理解されることを期待。(放射線忌避が行き過ぎて、必要な医療被曝さえ避けるようになって新たなリスクになることを危惧する)

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