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2013/11/08

突然変異と遺伝性疾患

動物の細胞には体細胞と生殖細胞の2種類があります。生殖細胞とは生殖器(卵巣または精巣)の中にある細胞で、それ以外の細胞は体細胞です。放射線によって突然変異が生じた場合、子々孫々にそれが伝わる可能性があるのはどの場合でしょうか。

1)体を作る体細胞に変異が生じた場合
2)次世代の元になる生殖細胞に変異が生じた場合
3)どちらの細胞に変異が生じても子孫に伝わる可能性はある
4)両方同時に変異が生じなければ子孫には伝わらない

解答と解説


2)の「次世代の元になる生殖細胞に変異が生じた場合」が正しい。

親世代の体細胞に何が起きても子孫には伝わりません。体細胞が生殖細胞に戻ることはないからです。生殖細胞に変異が起き、なおかつそれが生存可能な場合は子孫に伝わる可能性があります。生存が可能な変異であっても不妊を引き起こせば一代限りです。また減数分裂によって正常な細胞ができるため、変異が遺伝する確率は1/2になります。そのため代を重ねるうちにきえてしまうことも珍しくはありません。

なお、遺伝子上の変異は必ずしも形態や性質の変化をもたらす訳ではありません。遺伝子に〈傷〉がつくとすぐに悪い影響が出ると考えている人もいるかもしれませんが、それは誤っています。また遺伝子上に傷が生じるとたいていはDNA修復機能によって元に戻されます(一度に多数の傷が生じて修復が間に合わないときは細胞は自殺します)

さらにrecessiveな変異はペアにならないと形態や性質として現れてきません。ペアになる遺伝子が正常であれば異常がカバーされるからです。人は平均すると6個程度のrecessiveな病的遺伝子を持っていると考えられます。さらに病気になる突然変異には放射線被曝とは無関係なものも存在します。先天性障害児は、原発も原爆もない時代から一定の割合で生まれていることを忘れないでください。

男性や妊娠していない女性の被曝が次世代に影響するには
1.生殖細胞に非致死的だが有害な変異が生じる
2.DNA修復機能が追いつかない
3.減数分裂で排除されない、または減数分裂から受精までの間の細胞で変異が生じた
4.受精卵が着床する
の四段階をクリアする必要があります。現在までの調査では、原爆投下後に妊娠して生まれた被爆二世に被曝の影響は見られないとされていますが、もしあるとしてもかなり稀な現象でしょう(稀だからといって救済の対象にしなくて良いわけではありません)。被曝した親に放射線障害が出ていないなら子は心配する必要はありませんし、仮に親に疑わしい症状が現れた場合でも、子にも現れると決まったわけではありません。不摂生な生活をすればその方が大きな影響を及ぼすでしょう。

今般の事故は原爆投下とは異なる点もあるので、追跡調査は必要ですが、現在までに推定されている被曝線量や人数からして、先天性障害が続出するとは考えられません。お待たせしました!を期待して待っても無駄でしょう(「お待たせしました!」は2011年11月という、時期的には胎内被曝の影響っぽいけれど、影響を受けるのは8-25週つまり遅くても2011年1月には妊娠しているわけで、それなら10月までには出生しているはずで、辻褄が合わないような)

繰り返しますが、被曝しなくても障害児は生まれます。考えるべきは、集団の中に一定の率で生まれてくる障害児の幸福を保障する方策です。

出題意図


遺伝学の基礎を理解していないと、放射線による遺伝障害を誤解する。

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