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2013/06/19

酵素ってなんでしょう

私は大学の卒研で酵素を扱いました。そのころから「万田酵素」なんてものがあり、「なんか違う〈酵素〉があるな〜」とは思っていましたが、最近は酵素飲料とか酵素ダイエットなんてものも出てきて、物理学の人が〈波動〉を誤解されているのと似た状況に陥っているようだと現状認識。

きっかけは「かーちゃん」ことButayama3さん(わ、敬称内蔵型だ)がtogetterにまとめられた「酵素物語」(1-4)。酵素学をかじった人間が当たり前だと思っている知識が、実は全然当たり前ではないことを再認識させられました。基礎の基礎を生活感覚に合わせて説明しなければ...

さて評判の酵素飲料の作り方を調べてみると、「まずはこちらを見てください↓」と酵素についてもっと知りたい!! 素朴な疑問Q&A 【食事で酵素を効果的にとる 3つのワザ 】というページが紹介されている。そこをひらくともう目眩...

「免疫力を上げるには「酵素」をとる事です。」...そもそも免疫力の正体が不明ですが、仮に免疫細胞の活性だとしても、酵素は無関係。遺伝子の発現には酵素が必要とか、インターロイキンの合成には酵素が必要ってところまで行けば辻褄は合いますが...それなら「免疫力を上げるには炭素をとる事です」も成立する。

「(酵素とは)消化と代謝を助ける栄養素です」...もうね、アボカド、バナナと。

いちいち反論していたら長くなるので、上記ページのQ&Aに沿って解説しましょう(Q4,5は割愛)。

Q1. そもそも酵素って何?


(生体内で)化学反応を素早く行わせる触媒で、その実体はタンパク質(限られた領域ではRNAも酵素として機能しているが専門外の人は無視して構わない)。タンパク質だから、口から入れれば消化されるし、ヒト以外に由来する酵素を注射すればアレルギーを起こすことがある。

基本的に一種類の酵素は一種類の化学反応を司る。たとえばタンパク質を消化する酵素はデンプンを消化しない。タンパク質の消化でも、大きくぶった切る酵素と、腸で吸収できるアミノ酸にまで分解する酵素は別。また「タンパク質なら何でもござれ」というものから「特定の(構造を持った)タンパク質しか分解しない」というものまである。

多くの生命活動は酵素によって担われていると言える。たとえば刺激が神経を伝わるのさえ、酵素が関与している(殺虫剤の中には酵素を働かなくすることでシナプス接合部における神経伝達を異常にして虫を殺すものがある)。古典的な抗鬱剤が働きかけているのも脳の中の酵素。かと思えば毒蛇の毒も酵素、ジフテリア菌の毒も酵素。

発酵も微生物の酵素の働きで起きる。その過程を制御できていれば発酵だが、意図しない方向に進んだら腐敗と呼ぶのが相当。初めから酢を作るつもりなら酢酸発酵で、同じ現象でも酒を作るつもりが酸っぱくなってしまったのなら酸敗。

発酵、酵母、酵素。これらは互いに関係はあるものの、それぞれ別のもの。発酵は現象、酵母は発酵を起こす微生物(の一種)そして酵素は発酵を起こす物質。酵母による発酵は酵母菌内の酵素によって起こる。非正統的な酵素は発酵と区別の付いていないものが多い印象を持つ。これは ***Deleted for the Courtesy Reasons*** せいではないだろうか。

Q2.酵素は何に含まれているの?


酵素にはいろいろな種類がある。「酵素一般」が存在するのは生化学会大会の発表分類くらい。

アミラーゼなら唾液の中、ペプシンなら胃液の中、トリプシンなら小腸の中、カタラーゼなら血液の中、γグルタミルトランスペプチダーゼなら肝臓の中、ナットウキナーゼなら納豆の中といった具合。なお、それしかないという意味でも、そこにしかないという意味でもない。たとえばアミラーゼは麦芽や大根の中にもある。

したがって「酵素は何に含まれているの?」という問はナンセンス。それは「ビタミンの多い食べ物は何?」という質問が意味をなさないのと同じ(食べ物に限定しなければ「総合ビタミン剤」だが)

Q3.酵素が不足すると、どうなるの?


触媒は化学反応の前後で変化(減少)しない。もし生体内で酵素が不足すれば自動的に合成される(前酵素という半完成品で貯蔵しておいて、必要に応じて活性化する例もある)。それが間に合わなければ病気になる。生体外から補給した酵素が働くことは、極めてまれ(口から入れれば消化されるから)。効果があるのは風邪薬に配合されたリゾチーム(効かないという異論もある)、消化剤に配合されたジアスターゼやリパーゼくらいか。おっと脳梗塞の特効薬t-PAもその正体は酵素だが、これは消化酵素の影響を受けないように注射によって投与される。

Q6.酵素を無駄使いしないためにはどうしたらいいの?


「酵素の無駄遣い」が意味不明。酵素飲料などを信じている ***Deleted for the Courtesy Reasons*** な人の根本的な思い違いは、実際に機能している酵素とは別の、得体のしれない何かを酵素だと思い込んでいること(wikipediaの酵素の項目[2013年6月9日 (日) 21:18]にはわざわざ「酵素摂取による健康法が謳われ、健康食品やダイエットサプリメントなどに「酵素」の名を冠したものが数多く発売されているが、十分な科学的根拠がないものも多い。詳細は、酵素栄養学の項を参照」と注記されており、その酵素栄養学の項目では「一般的な生理学・分子生物学等との矛盾点」という一節が設けられている。)

実際に機能している酵素とはどんなものか。もちろん未同定のものはあるものの、その機能や性質がきちんと調べられたものには国際生化学分子生物学連合が名前を決め、EC番号を発行している。もし未知の、ヒトの健康に有用な酵素があるならば、家庭でできる摂取法の開発などよりも、その単離と同定に力が注がれるのが常識。特許を取るにはその方が有利だから。本当に有用であれば第三世界の民間療法さえ特許で押さえてしまうと非難される先進国の製薬会社等が見逃すはずがない

つまりまっとうな酵素であればEC番号を持っているし、それが未決定の場合でも名前を持っている。なぜならば名前がなければ研究を進めるのに支障をきたす。まさか論文に「アレ」とか「例の酵素」とか「松風」と書く訳にはいかない。そして司る反応が分かっていれば語尾が「-ase(カタカナの場合は〜アーゼもしくは〜エース)」の名前がつく。

逆にいえばEC番号がなく、名前(系統名または常用名)の無い酵素はモグリと言える。なお、語尾がaseではない酵素もある(カルパイン EC 3.4.22.17、ペプシン EC.3.4.23.1-3など)。

まとめ


世の中には酵素学が扱うような(まっとうな)酵素と、そうでないものとがある。
まっとうな酵素それぞれは、相手にする物質や促進する化学反応が決まっているスペシャリスト(体の中ではチームで働いている)。
まっとうでない〈酵素〉はただちにインチキと断定できるわけではないが、作用や性質が研究されている酵素と同列に見るべきではない。
酵素栄養学は正統的な学問とはみなされていない。

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togetterに「はたらけ!酵素ちゃん ~酵素物語 その6~」という素晴らしい [続きを読む]

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