« 勝浦へ担々麺を食べに行く | トップページ | 技術メモ:複数の画像をPDFへ »

2013/03/10

1月2月に載せたかったエントリー

ツイッターの手軽さに慣れてしまうと、ブログの更新がつい疎かになってしまう(ブログを始めたときは、htmlを書く手間が省けたから頻繁に更新できると喜びました、はい。)。複数の写真をレイアウトしようなんて考えるとホント面倒。

というわけで記事にしないままネタが溜まりました。いくつかは公開日をシレッと細工して、さも日をおかずしてアップしたみたいに体裁を取り繕いましたが、小細工にも疲れました。

ということでまとめて処理。

講座「放射能と健康」


遡れば昨年12月に参加した地元自治体主催の講座「放射能と健康」。東京工業大学の総合安全管理センターの教授が講演されたのだけれど、資料に変な間違い(「1mSv=1000mSv」とか「1μSv/hはおよそ9000μSv/h」とか)があるし、「知識があれば安心できるはず」という感じで(案の定、質問と称して演説をする放射悩さんが現れた)フラストレーションが溜まる。

というわけでメールを送付。

私は市内在住ですが、東京都内で放射線勉強会を開いている人たちと接触があり、未曾有の事故ではあったけれど「決して回復不可能なカタストロフィではなく、科学的な理屈付けで立ち向かうことのできる公害に過ぎない」(※)と考える人達と、「理屈はわからないけどとにかく心配で心配で仕方なく、安全デマを振りまく人が許せない」という人達の溝をどうしたら埋められるだろうかということを考えています。

※このフレーズは「「My農家を作ろう」方式の放射能測定がもたらしたもの」http://synodos.livedoor.biz/archives/2001647.html
から拝借

一部からは「エア御用」(金も貰っていないのに御用学者のようなことをいう学者)という心ない非難を浴びながらも丁寧な説明会(「5時間勉強会」)を繰り返す大阪大の菊地誠教授の講演会を手伝ったこともあります。

今回の聴講は、どちらかとうと「聴衆はどこに引っかかりを感じるか、またどう伝えたら納得するか」を見るのが目的でした。ですから質疑応答で〈定番〉の「内部被曝と外部被曝は...」「低線量被曝の影響は...」「天然の放射能と人工の放射能は...」「事故の影響を小さく見せようと...」が出たときには、こういうのは先に釘を刺しておくべきだとの思いをあらたにしました。

一方、側溝に線量計を近づけ殊更高い値を得て大騒ぎする人には「側溝の中で生活するわけじゃあるまいし」という批判が向けられるわけですが、これは〈男達の論理〉で「子供というのはとんでもない遊びを思いつく」というお言葉に改めて反省しました(ツイッターである女性とやり取りしたときは「傘を舐めないようにするのは放射能の有無とは別に大切です」と申し上げましたが、少し配慮して「言って聞くくらいなら苦労はしないでしょうが」と追加)。

さて、資料とご講演で気づいた点をいくつかお伝えします。と思って書き出していったら結構な量になって嫌がらせっぽくなってしまいましたので、先に重要な点を抜き出しますので、これだけはお目通し願います(●は特に重要)。

【重要な点】
p.6 会場で申し上げましたが「1mSv=1000μSv」「1μSv/hはおよそ9000μSv」。このミリ、マイクロは意外と理解されていないようで、上記「5時間勉強会」でも冒頭でSI接頭辞と指数を使った数の表記法に時間をたっぷりとっています。

 時間をhour、年をyearというのも口頭では伝わりにくかったと思います(会場でも手許の資料を直している人はあまり多くなかったような)。リスク、ベネフィット、ハザード等もきちんと通じたか心許なく感じます。

 グレイも説明も、今日の会場にいらした方のほとんどは熱量はカロリーで習い、ジュールというのは初耳だったと思います。

p.8 「内部被曝:食品の基準」は「これ以下であれば137Csを生涯摂取し続けても100mSvを超えない」という値と思いますが、とても誤解を招きやすく思います。なお野菜の項目は/kg抜け?

●それから日本における自然放射線の被曝量は従来1.4mSv/yと言われてきましたが、再評価の結果2.1mSv/yになったそうです(http://togetter.com/li/353567)。

 許容される「年間1mSv」は「追加被曝線量」であり、医療被曝は除いていることは力説する必要を感じます。

 直接降り注ぐ宇宙線の他、二次的に生成される放射性物質についても言及が必要です(雨や雪が降ると線量率が上昇する原因なので)。

●シーベルトは内部被曝と外部被曝を合わせて考えられるように工夫されているという説明も不可欠です。

p.11 私たちが知る「悲惨な放射線障害」「恐い放射能」はすべて確定的影響であることを念押しした方が良いと思います。とにかく「放射能は恐い派」の人はスケール観に歪みがあるので、下痢をするような被曝は4Sv以上で、治療をしなければ3~10日のうちに死ぬと線量を明記することが必要と思います。「一般市民には起こりません」ではたぶん納得しない。

p.12 説明なしに「実効線量」という言葉が出てきています。「等価線量」「実効線量」「預託実効線量」はいずれもシーベルトで表されるので時どき混同されています(1日の朝日一面記事など)。細かい説明はなくても「そういうものがある」という説明は必要かと。

●会場でも申し上げましたが100mSvで0.5%の増加は「致死性のがん」あるいは「がんで死亡する確率」です。(発がんが増えるという解説は結構流布していて、中川恵一さんも一時そう説明していましたが、「がんで死亡する確率」と訂正されています。http://tnakagawa.exblog.jp/15130220/
http://getnews.jp/archives/130538
これについては『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』の著者である田崎晴明さんのhttp://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/details/cancerRiskSupp.html#2
もご参考まで。)

p.16 「量と時間」ではなくて「率と時間」だと思います。サーベイメーターが示すのは線量率ですし、線量率×時間=線量です。(中川さんは「強さ(勢い)と量(積算量が問題)」と書かれています。)

p.25 会場でお伝えしましたが、「100mSv/年 以下であれば」は「累積100mSv以下であれば」。これ、他に気づいた人はいなかったのでしょうか。


(いかん、9000μSvの後ろの/yを落としてる。「というと」とすべきところが「とうと」になってるし...orz)

最高裁判所裁判官国民審査


総選挙と同時に行われた最高裁の裁判官に対する国民審査。一票の格差に対して政府よりの考えを示す裁判官への不信任票はそれ以外の裁判官に対するものより多かったけれど、以前ほどはっきりとした差ではないように感じる(統計処理は不得手)。これは全員に×をつけようと主張した「×10(バッテン)運動」の影響かもしれない。それでも構わないと賛同した人はおっしゃるかもしれないが、罷免の現実性がない以上はテーマを絞って裁判官に「これだけは許さんぞ」と迫った方が影響力があったのではないかと思う。なんていうのかな、敗北の美学に酔ってるんじゃないのかと。


「記者発表のメリットとデメリット」


1月末に東京大学本郷キャンパスで開かれた科学コミュニケーション研究会の関東支部勉強会。「科学報道を殺さないために-研究機関へお願い」で奮戦された日経サイエンス編集部の古田彩さんが講演。

発表取材と独自取材の違いなど非常に興味深いお話であったが、「これを知られるとまた叩かれる(かな)」というセンシティブな面も含むので書きづらい。メモの中から箇条書きすると


  • 独自取材は評価が高い(マスコミ内部でね)
  • 最近、研究者側が一般受けを狙いだす傾向が見られる
  • 独自取材は記者の努力・勉強を要求する
  • 記者の誤解は発表の方がおきやすい。
  • 独自取材は個人教授
  • 会見はコミュニケーションの責任を研究者に負わせるシステム
  • スイッチが入ると「全部話す」のが性(だから広報は邪魔!)
  • 情報コントロールがきつくなる…科学にとっても脅威

記者の養成システムについて意見を求めたが、全国紙と地域紙の違いなどもあり、一概には言えないようだった。

『風評』被害から信頼の構築へ


各府省庁の職員有志が企画した連続講演会の第四回。以前のシリーズはtogetter(ツイートのまとめサイト)にまとめられている。今回のは2月3日に雑司が谷で開かれたどうすれば「みんなで決める」ことができるのか?の会場で案内をもらい、当初はパスするつもりだったのに勢いで行きますと言ってしまったもの。

会場はGT会でお世話になった南青山会館。しかし周辺、特に駅からの沿道はずいぶんと変わった。「宮英」が店仕舞いしたのはかなり前で、今となってはもう場所も判然としない(その店には打ち上げで入り、「焼酎をボトル入れようか」「キープ期間は次回までもつか?」なんて言いながら注文したら、開店早々で湯が沸いていないというので「仕方ないなぁ」と言いながら割らずにちびりちびり、いやぐびりぐびりと飲んでいたら、湯が来た頃には空になっていたという思い出がある)。会場となった新館は初めての利用。

主催者からは宿題が出されていた。以下の指定テキストを読んでくるように、と。


  1. 五十嵐泰正、「安全・安心の柏産柏消」円卓会議:『みんなで決めた『安心』のかたち――ポスト3.11の『地産地消』をさがした柏の一年』亜紀書房 2012

  2. 五十嵐泰正:「『My農家を作ろう』方式の放射能測定がもたらしたもの

  3. 五十嵐泰正:「地産地消のためのセカンドオピニオン

②③のシノドスジャーナルはネットで公開されているのですぐ読めた。『みんなで決めた「安心」のかたち』は近所の書店では見つけることができず(探しに行って、代わりに『スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか』と『わたしは目で話します』を買う羽目に)、結局当日になってジュンク堂で入手できた。幸いにも時間に余裕があったので山手線を逆回りに乗って急いで読む。

開場前に会場前で読み続けていると「車いすが...」という会話が耳に入る。そうだナカイさんは車いすで来る...新館にはエレベーターがない! でもなんとかなったみたい。

始まってすぐに恐ろしいことに気づく(あれ? 投稿は「19:01 - 2013年2月7日」なのに違う時刻表示だ)


(この後にHootSuiteで自動予約したツイートが割り込み、あとで気づいて冷や汗)

講演の内容は概ね書籍をトレースしたものだが、多少オフレコチックな補足も。全市民の代表ではなく対象を地元の少量多品種農家と消費者の一部に限定したのが成功のもとと分かる。放射能は1ベクレルでも嫌、という人は通じる言葉を持たないとして除外したのも英断。そして遠慮がちではあったけれど明らかに誤った動きには規制が必要とも。

終演後、スライドの間違いをご注進。懐が寂しいので懇親会はパスして帰宅。しかし行った甲斐があった。このあと『スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか』でも単位間違いを発見して訳者に連絡。うーん、皆さん単位にはもう少し注意しましょうよ(ってか、誰も気づかないの? 特に「放射能と健康」で噛み付いてた内部被曝ガーさん。基本的な知識を欠いているか、講演のスライドを見ていないか、単なる不注意なのか...あなたがた放射悩へのシンパシーは薄れるばかり)

|

« 勝浦へ担々麺を食べに行く | トップページ | 技術メモ:複数の画像をPDFへ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 1月2月に載せたかったエントリー:

« 勝浦へ担々麺を食べに行く | トップページ | 技術メモ:複数の画像をPDFへ »