« 「タウリン1000mg」と「末端価格3億円」 | トップページ | 三宝寺池探索 »

2012/12/04

火焙りか絞首刑か(用語解説)

中世に吹き荒れた魔女裁判を支えたのは被告人の自白。「自分は魔女である」に加え、「魔女の集会にはあの人も来ていた」と〈共犯者〉を告発する虚偽の自白もするものだから芋づる式というよりは指数関数的に〈魔女〉容疑者が増えていった。

捜査段階では過酷な拷問がある。ちなみに激しい拷問にも耐えて自白をしないのは魔法によって身を守っていると判断され、つまり魔女の認定を受ける。拷問中に死んでしまうことも珍しくないので、「無駄な否認を貫くより、嘘の自白をして拷問を避けた方が得」という判断が広まる。

尋問官も拷問には消極的な様子を見せ、マニュアルによれば責具を見せながらの説得から始まるという。ストックホルム症候群と似た状況になるのかもしれない。

しかし、そういう追い詰められた状況から解放されても自白は撤回されなかった。処刑台の上から、集まった群衆に向かって「私は無実だ」という劇的な告発も起きなかった。なぜか。拷問室に送り返されたり、絞首刑の予定を火焙りに変更されたりしたから。

一口に火焙りと言っても、魔女裁判のそれはかなり厳しい。八百屋お七ならば熱気を吸い込んだ途端に失神し、短時間のうちに煙で窒息死したであろうが、中世ヨーロッパではゆっくりと燃える生木が使用され、とろ火で焙られるため窒息することも失神することもできず半分焼け落ちた死刑囚が「薪を足してください」と懇願する有様だったという(公平のために付け加えれば点火の前に〈お慈悲の一突き〉などで死なせてもらった例もあるようだ)

ちなみにヨーロッパ人には絞首刑というのは相当嫌な刑罰らしく、法定刑は絞首刑の罪人が「お慈悲により打首」という判決をもらうと涙を流して喜んだという記録があるらしい。この「お慈悲により打首」は『ある首斬り役人の日記』にしばしば登場する。その絞首刑の方が良いというのだから、火焙りがどれほど恐ろしかったか推測できる。

そういうわけで、選挙などで支持できる候補者がいなくて最悪よりは次悪を選択させられるような状況を「火焙りか絞首刑か」と表現するわけだけれど、上述した背景を知らないと思われる人には奇矯過激な妄言に聞こえるようだ。

またフランス共産党がド・ゴール派と社会党を「コレラとペスト」(どちらかを選んだ方がマシということはない)と評したという話も底にある。

しかしまー、実際には、たとえばヒトラーとムッソリーニの選択であれば、反ユダヤ主義から距離をおくようになったムッソリーニの方がマシとも言えるし、ヒトラーとスターリンの選択であれば、〈アーリア人〉と認めれば冷遇はしなかったヒトラーの方がマシ(同じ理由でスターリンの方がマシとも言いうる)と言えなくもないし、スターリンとポルポ....と違いを見つけようと思えばなんとかなることが多い。

こういう究極の選択からは程遠いとは言え、「守旧派大ボス vs. 箸にも棒にもかからぬ極右泡沫候補」なんて選挙を設定されると、投票することに何か意味があるのかと悩んでしまう。ボスが進めようとしている政策に反対だからといって、時代錯誤な差別政策を掲げる泡沫に投票して支持を表明して良いのか? そうなると思いつくのは白票や無効覚悟の他事記載であるけれど、それも「最善がなければ次善」派の皆さんは「自己満足だ」として許してくれない。

なによりも恐ろしいのは、カウンターのつもりで投票した候補が当選してしまうこと。心情的には青島幸男を支持したいし、泡沫とは言えず、都市博とそれに付随する開発は止めて正解だったと思うので例にしたくはないのだけれど、95年の選挙結果が諸手を上げて歓迎すべきものかというと躊躇いを覚えてしまう。青島ならまだ良いけれど、赤尾敏だったらどーすんのよ。中規模の自治体首長選では誰もが驚く番狂わせは起こりやすいし、議員選なら冗談から困ったは頻繁に起きているはず。たぶん、どんな選挙でも有効票と投ずべきという人は、自分の投票結果に後悔したことがない幸せな人なのだろう。忘れてしまっているのかもしれないが。

なお、意中の候補がいなければ擁立すれば良いではないか、なんなら自ら立候補を、というのは正論である。だが、誰も異を唱えられない正論(「お父さん、お母さんを大切にしょう」とか)をことさらに主張する人間には用心しなければならない。「郷原は徳の賊なり

しかし、今度の選挙どうしましょうかねぇ...


|

« 「タウリン1000mg」と「末端価格3億円」 | トップページ | 三宝寺池探索 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 火焙りか絞首刑か(用語解説):

« 「タウリン1000mg」と「末端価格3億円」 | トップページ | 三宝寺池探索 »