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2012/09/04

「放射線情報を正しく理解するための基礎講座」を聞く

1日に練馬区で開かれた「放射線情報を正しく理解するための基礎講座」を聞いてきた。これは「ふくしまの話を聞こう」で知己を得た女性が区に掛けあって、練馬区教育委員会委託子供安全学習講座として開催したもの。

子供安全学習講座だから、素直に考えれば放射能の危険からどう身を守るかの話になるはずだが、既に東京都内は数値的にも感覚的にも放射能の危険はほとんどない。都市濃縮のような厄介な問題は残っているとはいえ、それは個人で注意するよりは行政がまとめて対処した方がよい問題。

そこでこの講座では視点を変え、放射能への不安に便乗した怪しい商売から身を守る事を主眼に、震災以前からニセ科学問題に取り組んできた菊池誠大阪大学教授をお招きした(と理解した)。

差し入れの酪王カフェオレを手にする菊池先生

差し入れの酪王カフェオレを手にするきくまここと菊池誠先生。

こちらとしては怪しい商品を列挙してなで斬り、を期待したが、「浜の真砂は尽きるとも、ペテンの種は尽きまじ」だし、〈オレオレ詐欺〉の進化を見ても詐欺師の方が一枚上手で、個別の商品名を覚えて対処しようとしても覚えきれるわけがない。それよりも原理が分かっていれば、科学的におかしなものは新種が登場しても見分けられるということで、物理化学の基礎の基礎から話は始まった。

これは翌2日に荻窪で別団体主催の放射能基礎講座、別名「5時間コース勉強会」の実質ダイジェスト版で、好評のSI接頭辞解説は省略して「原子と分子」からスタート。

カリ肥料の袋とガイガー管

ガイガー管の出力をスピーカーにつなげたもの。カリ肥料からの放射線を検出するデモ。

全体的に見れば高校までの理科(物理・化学)で習ったことでカバーできる内容なのだが、学校で習ったことというのは意外に忘れているものである。忘れているから習った記憶すらない。逆に覚えているとことは「知ってて当然」に思えてしまうから退屈に思えてしまう、でナメているといつの間にか置いてけぼり。

このパートを主観を交えて要約すると、次のようになる。


  • 元素の種類は原子核内の陽子の数で決まる

  • 原子核の周りには陽子の数に見合った電子が存在し、最外縁の電子が化学反応に関与している

  • 原子核の大きさは、原子の1万分の1以下

  • 原子核内の陽子と中性子は核力(強い相互作用)という極めて短い距離でだけ作用する力でまとまっている

  • したがって核反応と化学反応とは、場所(原子の中心/原子の外縁)も主役(陽子・中性子/電子)も働く力(核力/電磁力)も異なり、放射性元素の性質を化学(生物)反応で変えることはできない

学校で習う原子の構造が、原子核と原子の大きさがせいぜい1:50で描かれ、原子核は原子の奥深くに鎮座していることを理解させないのが良くない。原子核を直径1mmで描いたら、原子は最低でも直径10mにしなければならないのだ。

続いて、陽子と中性子のバランスが崩れた原子核は不安定で崩壊するという話。お得意の合コン抜け出しモデルは、お堅い区の主催ということに遠慮して披露されず、ちょっと不完全燃焼気味。後ろで見ていると、137Cs→137mBa→137という崩壊図が一斉にメモされ、ああ、これも新鮮なのだなと感心。さらに驚いたのは「γ線って有害なんですか」というフロアからの質問(質問は随時受け付ける形式を採用)。γ線は光子という説明のせいもあるのだろうが、放射線のイメージも人によってずいぶんと違うことを実感した。ここまでで45分。

半減期


半減期は説明が難しい。従来は「放射能が半分になる時間」と説明されることが多かったと思うが、今回出てきたのは〈神のサイコロ〉。これはアインシュタインが量子力学を批判した言葉(神はサイコロを振らない)由来。各原子について神がサイコロを振る。当りが出たらその原子の核は崩壊する。6面体サイコロの場合、3回振るまでに当り(たとえば1)が出る確率は125/216で約1/2となる。8面や12面のサイコロならもう少し多く振らないといけない。それが核種ごとの半減期の違い。

サイコロを振る頻度で悩む人がいるかもしれないが、それは1秒に1回でも1秒に100回でも構わない。この説明の秀逸なところは「放射能(原子)が半分に」だと行き詰まる「最後の1個はどうなるの?」をイメージできること。「当たり」が出るまで振り続けるだけの話。その頃には平均すると1秒に1個の崩壊も無くなって、つまり1ベクレルを切るようになっている。

100面体のサイコロとか長短様々な半減期(短いのはミリ秒とかマイクロ秒だし、長いのは1024年)を網羅するのが理解できないという人は複数のサイコロを振ってピンゾロ(1がそろう)とか、大きなルーレットを考えても結構。

このあと、ヨウ素131は半減期(8日)を過ぎるごとに半分になっていくので、1か月で1/14、半年で1/5,931,000になるから昨年3月に出た分はもう消えていて心配する必要はない、被曝の単位のシーベルトには3種類あるから混同に注意などといったよく知られた話がされたが、会場の反応は初めて聞いたみたいで、議論の前提となる知識の共有の難しさが垣間見られた。

感想


大切なのは物事を定量的に考えること。桁(オーダー)に注意しながら数字を見て、その意味を考えていけば、勘違いのかなりは防げる。落ち着いてみればイカサマ商売を見破るのもそう難しいことではない。イカサマ商売は恐怖を煽り冷静な判断をさせないように仕向けてくる。放射能は恐いと怯えた人は、自分がどれくらい被曝できるかを考えなかった。過去の事故の線量と現状の線量を比較しなかった。ベクレルとシーベルトは桁が違う(セシウム137で内部被曝の場合10,000ベクレルで0.13ミリシーベルト)のに同列に見て0ベクレルを指向してしまった。人体は何もなくてもカリウムや炭素からの6000ベクレル程度の放射能があるとの指摘に「ごまかし」と耳を塞いでしまった。ちなみに福島の現状は、チェルノブイリよりはるかに良い。

もう一つは対照の重要性。実験において対照(コントロール)が必須であるのと同様、観察においても「2011年3月以前はどうだったか」を忘れてはいけない。実際、ネットで騒がれる「自然界に異変が!」は、にわか観察家の勘違い。「殺人犯の9割以上は、犯行前24時間以内に米の飯を食べていた」になんの意味があるだろうか。

講義そのものよりは、講義がどう聞かれるかに興味があったので、もっぱら聴衆の様子ばかりを見ていたが、延々と続く基礎の話に皆さん熱心に聞き入っていた。誘った知人はいたく感心していて、自分でも勉強会を開催しそうな勢いだった(菊池先生曰く人が集まればいきます、と)。

受付担当の女性たち

運営はきくまこファン?の女性たち。


補:バリウムの影響


フロアの中に、危険があって欲しいと願っているような方がいた。持ち出す懸念が次々否定される中で食い下がったのが、放射性セシウムが崩壊してできるバリウムの化学毒性。たしかにバリウムには毒性がある。胃の造影に使う硫酸バリウムは不溶性なので無害だが、炭酸バリウムは胃酸で溶けるため毒重石という名前が付いているほど。だが、帰ってきてから調べると半数致死量(LD50)はラットで118~800 mg/kg。水道水の要検討項目目標値が0.7mg/l。高バリウム濃度の水を飲用する地域住民の調査から0.21 mg/kg 体重/日では影響がないことが分かっている。TDI(耐容一日摂取量)は20 μg/kg 体重/日で、体重60kgの大人なら1.2ミリグラム/日。一方、1ベクレルのセシウム137は0.3ピコグラム=10兆分の3グラム。ピコというのはミリの10億分の1(1mg=1000ug=1,000,000ng=1,000,000,000pg)。1ミリシーベルト被曝するには約77,000ベクレルのセシウム137が必要で、質量でいうと23ナノグラム。逆に言えば、セシウムやバリウムの化学毒性が現れるような量であれば、先に放射線障害が現れるということ(これは会場で菊池先生も指摘)。量を考えるのが大切。

質量換算単位をナノグラムに
揃えると
1日に摂取して影響の出ない
バリウムの量
20マイクログラム/kg体重1200マイクログラム1,200,000
1mSv被曝するセシウム137の量77,000ベクレル23ナノグラム23
10Sv被曝するセシウム137の量770,000,000ベクレル230,000ナノグラム230,000
※実効線量で10Sv被曝すれば高い確率で死亡します。

サリドマイド事件が起きたとき、まだ薬害と認識されていない時期に、息子の上肢欠損を原爆の影響だと思い込んでしまった人がいた(母が被爆者)。後に誤りに気づき、被害児家族を組織して救済対策を進めたけれど、一時的にせよ世間を欺いてしまったことに自責の念を持ち続けたらしい。動機の純粋性は主張の妥当性を担保しない。

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受信: 2012/09/05 17:43

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