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2012/09/05

反原発の知人への返信

1日に「放射線情報を正しく理解するための基礎講座」を聞いた後で、知人からのメールに次のような返信をした。

反原発派の端くれとして微妙なのですが、つまり「今回の事故は当初悲観したほどひどくはなかった」ということなのですね。いまでも避難を強いられている方々には申し訳ないけれど、広瀬隆が昔『東京に原発を』で書いた、人がばたばた倒れるの目の当たりにして「大変なことが起きた」と慄くような事態ではなかった。
以前、映画「アレクセイと泉」を観た時は、政府の避難勧告を無視して汚染された村に住み続ける住民を「無謀な」と思ったものだ。泉だけは汚染されていないと言っても「百年前の水が湧き出る」なんてのは事実の裏付けがない伝承であって、翌年から汚染水が湧き出すかもしれないじゃないかと憤ったりもした。原爆の図 丸木美術館の展示にも、汚染された村での生活を選択する住民を描いた作品群があり、たしかに天秤の一方には〈故郷を喪うことによる精神的打撃〉があると理解したものの、もう一方に載る〈放射能の危険〉を重視していたので、腑に落ちない思いをしたことを記憶している。

多くの人がそうであろうが、私の放射能への恐怖感は広島・長崎に代表される核攻撃の事例で形成されている。ところが瞬時にエネルギー(放射線)を放出し放射性物質を広範囲にばらまく核兵器と、じわじわ反応型の原子力発電所とでは様相が異なる。これについては以前の記事に書いた。

といっても、原発事故は恐くはない、と楽観しているわけではない。


これはいろいろな幸運が重なった結果であって、〈次回〉もそんな僥倖に恵まれる保証はないわけですが。

言霊の幸わう国で「次回」などと口に出したら非難轟々だろう。だが、世界はもちろん日本に限っても脱原発には悲観的なので、次の事故はいずれ起きる。それが10年後か50年後かは分からないが。

そしてその時には緊急停止に成功しないかもしれない。複数の原発が連鎖的に制御不能に陥るかもしれない。風が大量の放射能雲を大都会へ運んでくるかもしれない。水源地帯が汚染されるかもしれない。収穫直前の作物が高濃度の90Srで汚染されるかもしれない(ストロンチウム90の検出には2週間かかる)。...

しかし、今回は緊急停止に成功し、事故を起こしたのは東京電力1F(福島第一原子力発電所)に限られ、風は放射能雲の多くを海へと運び、多くの農地は作付け準備中であり、そして陸地の90Sr汚染は少なかった。住民の被曝線量は低く、毛が抜けて吐いて死ぬようなことが起きないのはもちろん、白内障でさえ起きそうにない。なによりも汚染源である1Fで多くの作業員が働いている。彼らが将来がんに罹って死ぬ可能性はいくばくか高くなってはいるけれども。

で、本来なら「ああ、良かった」と安堵すべき(繰り返しますが、これは遠隔地の勝手な安堵)ところ、なぜか健康被害が出ないと納得しない人達が蠢き始めた。福島県からの避難援助くらいなら構わないけれど、避難しない人を攻撃する、東京も危ないと煽る、瓦礫処理を妨害する...とどんどん素っ頓狂で有害な行動が目立ちだした。

懲りていないように見える原発業界の監視も必要なのに、とんだ二重対峙です。共産党を警戒していたら、反共が看板のヒトラーとかムッソリーニとかの変な連中が台頭してきたみたいな。


「反原発をファシスト呼ばわりした」と誤読して非難されるかもしれないが、文章をちゃんと読めば分かるように反原発勢力がファッショであるとは書いていない。書いてはいないが、「ヒトラーと対抗するために手を結んだら相手がスターリンだった」という比喩にしなかった理由はご賢察の通り。

あと、このメールの相手のような年齢の方に「二重対峙」なんて用語を持ち出すとピクッとされるかと心配したが、今のところ看過されている。

特に小さい子を抱えた母親たちの怯え方は想像以上で、東京から沖縄に避難する、沖縄で青森からの雪の搬入に反対する、親の情緒不安定は子供に悪影響必至で、ちょっと座視できない。(中略)「放射能を帯びた土埃を吸い込んだって、痰や鼻クソで出ていくでしょ」と説明したらとても晴れやかな顔をしていたのが印象的。理屈で判断する手がかりを得たら、不安に振り回されずに済むようになった。セシウムが検出された食品の話でも、「干し椎茸を1kgも一度には食べない」と気づくと、実際の被曝量を考えることができる。

あと気づいたのは、意外なほど「量の概念」が共有されていないこと。きくまこさんの「5時間講義」では冒頭延々と指数とSI接頭辞が解説されるのはそのせい。


「5時間講義」については、翌2日に荻窪で開かれIWJが中継したものよりも以前に録画したもの推奨されている。

ベクレル(Bq/kg)とミリシーベルト(mSv/y)は似たような桁(1以上100以下)で出てくるので等価に感じている人が多いみたいだが、セシウム137(137Cs)を10,000Bqを経口摂取しても(預託)実効線量は0.13mSvにしかならない。外部被曝の場合は1mの距離に100万Bqの137Csがあっても、1日に0.0019mSvしか被曝しない(原子力資料情報室の説明)。これは年間でも0.7mSvに満たない線量で、避けるべき無駄な被曝の基準1mSv/yを下回っている。それなのにエアコンの埃から7万ベクレル!と大騒ぎする人がいる。100万Bqでも0.7mSv/yなのだよ。その1/10以下(実際には134Csも検出され、これは137CSよりも強い比放射能を持つけれどここでの結果には影響しない)。しかも7万Bqがそこにあったのではなくて、7万Bq/kgのセシウム(134+137)。エアコンのフィルターに埃を1kgもためたら、放射能は関係なくそっちの方が問題(フィルターごと測定と訳のわからないことが書いてある)。実際の埃の量はせいぜい数グラムであろう。なら放射性セシウムの絶対量は? 計算するのもバカらしい。

こうして放射線による被害がなさそうだと知られてくると、今度は化学毒性を持ち出してくる。前の記事にも書いたように、量的にお話にならない。化学毒性が問題になるほど放射性セシウムを摂取したら、その前に放射線障害で死んでいる。

メールをくれた知人からは、旧知の反原発仲間との討論会を提起された。「ぼくらが、きちんと討論できないようだったら、日本全体での総意形成など不可能と考えます。」

うーん、重たい。

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