感動の一枚が怪写真に化けるまで
ロンドンオリンピックのサッカー3位決定戦。負けてがっかりなところへ来て、浮かれた韓国選手が「独島は我が領土」なんてデモンストレーションしたものだから、頭に血がのぼった日本人は多かったようだ。
そこへ春・夏・秋・冬というブログに載った試合終了後に清掃する日本人応援団という写真が出回り始めた。Facebookを始めあちこちに紹介され、サッカーにあまり関心のない私のところにまでツイッターで伝わってきた。
しかし、日本人サポーターは日本での試合終了後と同じように、自分達の応援席を中心にしたスペースのゴミ拾いをして清掃している姿が外国人記者の目に止まり、その姿を写真に収められた。
ややもすれば、負けたことの腹いせにイスを壊したりモノを投げたりの暴挙に出るやもしないのに、冷静に清掃する・・・誇らしい姿じゃないか。
ふーん、と思いながら読んでいたが「外国人記者の目に止まり、その姿を写真に収められた」というところで引っかかった。つまり外国の(?)雑誌あるいは新聞に載った写真らしいのに、出所がどこにも書いてない。屈んでいる二人は大きな日章旗らしいものを羽織っているので、オリンピック会場というのはそうだろうけれど、本当にサッカー日韓戦後のスタジアムで撮った写真ですか?と問われると確答しかねる。
そこで、とりあえずブログのツイートボタンからは出所不明の写真であると指摘してから、出所を確認すべくgoogle画像検索にかけてみた。ところがヒットするのは日本語のページばかり(検索に言語指定はかけていない)。日付指定をして絞りこむと、どうやら初出は前記ブログ。変ではないか。
ネットには嘘がいっぱい
ツイッターというのはほんとうに嘘が沢山流れてくる。割合で見れば少ないのかもしれないが、とにかく総ツイートが膨大なので、結構な数の嘘が目に付く(情報の真贋を見極められない人ばかりフォローしてる、ということはない)。特に目を引く写真は要注意で、もっともらしい説明が付いていても、実は無関係な写真に適当なお話を付け加えただけというシロモノが結構多い(黒猫先生も具体的に注意している)。それが「シャレである」という認識が共有されているなら、やれ出所がどうのこうのというのは野暮であるけれど、糸柳事件を持ち出すまでもなく、〈お約束の冗談〉がいつの間にか〈本当の話〉として広がることは起こりうるし、担ぐ気まんまんで流されたらたまったものではない。
騙されているにもかかわらず、嘘を信じて、その筋の専門家に喧嘩を売っている痛々しい素人もそう珍しくはない。
オリンピックでは、石原慎太郎都知事が「銅メダルなんて誰でも取れる、金を取らなきゃメダルじゃない。金を取らないと日本に帰ってこられないようなもっと重たいものを課せばいい」とTVで発言したという8月6日付のツイートもあった(14日現在11,232RT)が、調べてみるとこれは2010年の冬季オリンピックの時の発言。ほんっとウカウカしていると騙される。
ホームページの時代から怪情報はあったけれど、掲示板、ブログ、ツイッターと手軽になるに従って、騙された人間が拡大再生産して爆発的に広がるようになってしまった。
この写真は本物か
で、冒頭の写真に戻る。少なくとも外国の新聞雑誌には載っていない写真らしい。もっとも撮影した外国人記者から直接もらい、記者の記事は没になった(あるいは紙誌面だけでネット版不掲載)という可能性も残るから、間接的に韓国の悪口を言うために「日本って素晴らしい」を捏造したと断定することはできない。しかしまぁ、なんか怪しい写真であることには違いない。そこで調査結果をツイート(このツイートに書いたURIは現在無効)して、美談を鵜呑みにはしてないよ、をアピール。
1日経って、今度は顔本でもこの写真を目にした。「みんなイイ話と思ってるみたいだけど、なんか怪しいよ」とコメントすべく、念のため再度画像検索をかけた。すると12日にこの写真を付してツイートしている人を発見。たしかにロンドンオリンピック男子サッカー三位決定戦後の写真と書いてある。しかしツイートに表示された現在地はパリ。(?_?)
この写真は本物だ
この人はTwilogに登録していなかったが、幸い直近200ツイートの中に残っていた。前後のツイートを読むと、オリンピック観戦後ユーロスターでパリに出てきて、ドゴール空港から帰国するらしい。矛盾するようなツイートは見当たらないので、あの写真はこの人が撮ったと判断。
そうするとおせっかいの虫が動き出し、御注進に及ぶべく、まず証拠固め。ひょっとしてもう気付かれているかもと思い、さらにツイートを追ってみると13日にこの写真を撮ったのは僕ですと。
そして件のブログ主も「伝聞をそのまま鵜呑みにしてしまいました。早速(本日14日午前中には)訂正して撮影者様のことも記載訂正いたします。」と詫びをいれている(14日8時)。え?と思ってエントリーを見直すと、末尾に追記がしてあった。こういう場合は「清掃している姿が外国人記者の目に止まり、その姿を(追記参照)写真に収められた。」のようにすべきだと思う。
引用では出所を明示する
間違いを書いたブログ主が最初にどこでこの写真を見たのかは不明だが、自分のブログで紹介するときに、引用のルールに従って出所を明示していれば(しようと努力していれば)、こういう間違いはしないで済んだろう。コメント欄でも転載元を明記した方が良いと注意されているのに、「ご指摘ありがとうございます。今後の参考にさせていただきます。」と他人事のよう(13日20時半)。その12時間後には冷や汗を流すことになる。
今回は撮影者の了解を得られたから良いものの、出所を示さず、あまつさえ間違えた説明(外国人記者が撮影)を付して掲載した行為は著作権法違反(十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金)に問われる行為だ。注意したい。
なお、引用絡みで言えば、韓国選手がかかげたボードに「竹島は我が領土」などと書いてあるわけがない。元が韓国語なので翻訳の問題もあるけれど、たとえるならば無実を訴える死刑囚が「不当判決の撤回を」と書いているのを「確定判決の撤回を」と書き直すようなもので、間違ってはいないけれど、それをやったら検察に肩入れしてると見られるだろう。おそらくブログ主は「竹島は日本固有領土に決まっている」と思っていて、ためらうことなく「竹島」と〈翻訳〉してしまったのであろうが。
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