« シマウマ症候群/医学生症候群(用語解説) | トップページ | 「勘助のかなしみ」 »

2012/03/26

エタノールで良いのか

飲むアルコールならエタノールに限りますが、そういう話ではなくて。

ツイッターで、放射性セシウムで汚染された米の使い道についてさえずっていたら、「がんばれ、東日本の米作り!③ 米のバイオエタノール化の現状と展望」というシンポジウムを教えていただいたので聞いてきた。

基調講演「コメ・イネのバイオエタノール化の現状と展望 被災地におけるバイオエタノール生産」
横山伸也(東京大学名誉教授・鳥取環境大学教授)

話題提供「新潟におけるバイオ燃料地域利用モデル実証事業の成果と課題」
中澤靖彦(JA全農 営農販売企画部長)

話題提供「多収穫イネ栽培のLCA解析」
芋生憲司(東京大学大学院農学生命科学研究科・教授)

話題提供「苫小牧市でのバイオ燃料プロジェクトの取り組みについて」
大﨑威司(オエノンホールディングス㈱ 苫小牧事業開発室 GM)

話題提供「北海道水田・畑作農業の現状とバイオエタノール事業の取り組み」
浅野正昭(北海道農業協同組合中央会 農業対策部次長)

総合討論 

各講演で使われたスライドは「イネイネ・日本」研究会の会員専用ページで公開されるという。

エタノールの弱点


聞きに行く前から感じていたエタノールの弱点は次の2つ。

熱量が小さい
 1gで約27000Jと、ガソリンの44000Jに比べて7割以下。
既存のガソリンエンジンに単独では使えない
 熱量が小さい上に腐食性がある。そのためガソリンに3-10%混合するにとどまっている。

そうするとブタノールやバイオディーゼル燃料の方が有望ではないかと考えていた。無改造または簡単な改造で既存車に使用でき、完全代替も可能(実際にはそうそう簡単ではないようだが)。

汚染された農地


東京電力の原子力発電所事故により放出された放射性セシウムにより農地や水源が汚染されたため、出荷できない米が積み上がっている。また今後生産しても規制値を超えてしまい出荷可能な米が収穫できないと予想される農地ができてしまった。

除染すると言っても、汚染されているのは農業に重要な表土部分。削りとってしまえば土作りからやり直しだし、大量の汚染土の処分法も決まっていないから現実的とは言えない(反転法でも土作りの問題は残る)。また化学的にセシウムを分離する方法は、経済性まで含めた有効性以前の問題として、土壌の栄養分や微生物相を破壊してしまうことが懸念される。

なお、微生物によって放射能の減衰を早めることはできない。ひょっとすると菌体内に蓄積するものはあるかもしれないが、菌を回収しなければ意味はないし、回収すれば低レベル放射性廃棄物ではすまないだろう。素人には扱えまい。また土質を大きく変える可能性がある。「微生物で除染」をうたう業者は疑ってかかるべき。

それで、「ナタネでも植えて、油を売りながら放射能の減衰を待つしか無いか」などと考えていた(「油を売る」はバイオディーゼル燃料を念頭において)。

ところがである。話は聞いてみないと分からない。シンポジウムでは複数の演者が「農家は米を作りたい」と強調していた(理由はあえて詮索しない)。そして田圃は耕作しなければ荒廃するとも。

放射能汚染米の用途としてのバイオエタノール


汚染農地で米を作り続ければ汚染米が蓄積される。闇流通を防ぐために国が買い上げるにしても、埋却あるいは焼却するための米生産では農家もやる気が出ないだろう。帝政ロシアでは政治囚を苦しませるために、穴を掘らせて埋めさせる繰り返しという作業をさせたと聞くが、人間は意味のない仕事に耐えられない。

放射能が十分に減るまで倉庫保管という手もあるが、その頃には他所は検出限界下の米ばかりで、規制値未満とはいえ検出されるような米に買い手はつかないだろう。そもそもそんな古古古古古米を誰が食べるだろうか。(食糧難でも来ていれば別)

そこで出てきたのがバイオエタノール。蒸留して得たエタノールに放射性セシウムが入ることは理論上ありえない。とすれば汚染米の用途としてエタノール製造は有望...か?

転換効率とかエタノールの需要とかを考えると、乾燥粉砕して石炭火力発電所の燃料にするのがもっとも効率が高いかも、という考えも浮かんだ。

バイオエタノールの現状


シンポジウムでは先行事例として新潟のグリーンガソリン北海道におけるイネエタノール事業が紹介された。

結論から言うと、エタノールだけでは商売にならない。15000kl(年間)のエタノールの他に籾殻や蒸留後の発酵液まで販売し、それでも経営は苦しいという。しかも汚染米を使えば、普通なら家畜飼料として販売できる蒸留した後の発酵液(DGS)に放射能が残留する可能性があり、この販売は難しい。(どうやら酒粕は絞らず、もろみのまま蒸留するようだ。)

より根本的な問題として、放射能汚染が収束した後のプラントはどうするのか?を考えなければいけない。農家はそのまま燃料用米の栽培を続けるか? 事故が収束すれば補助金投入は正当化できないが自立可能か? 燃料化プラントをたたんだら雇用されていた人たちはどうする? 食用米栽培のノウハウは失われていないか? そしてこれは国家的なエネルギー戦略とも関係する。

言い換えれば、技術の問題ではなくて政治の問題なのだ。総合討論において五十嵐泰夫(東京大学大学院農学生命科学研究科)教授は「国はビジョンと希望を農家に示さなければならない」と端的なまとめを行った。(このビジョンこそが戦後農政にもっとも欠けていたものではないかと考えると、いささか暗い気持ちになる。)

会場には福島から来た人もいて、「たとえ放射能が検出されなくても、福島の米は売れない」と窮状を訴えた。口に入れないものなら受け入れられるかも...とは実に屈辱的な話だ。農家が誇りを持って取り組めるような対策をとらなければならない。簡単にいえば、高値で売れる作物が必要。

バイオ燃料の可能性


原子力発電を断念し、なおかつ化石燃料の消費を削減しようとすればいきおい再生可能エネルギーに頼らざるをえない。その中では太陽光発電ではなくバイオ燃料が有力だと考えている。

理由は、栽培技術は成熟している;火力発電も枯れた技術である;コンバインドサイクルや熱電併給により効率が高くなる;内燃機関の燃料として用途が多彩;蓄積できる、など。

トラクターやコンバインが動かなければ日本の農業は立ちいかなくなろう。そもそもトラックが動かなければ流通がアウトになる。太陽光でトラックが動くか? 昼間しか走れないぞ(バッテリーを使えば夜でも走れるが)

植物体を乾燥させて固体燃料として用いる場合は、火力発電に限定されるが、それでも太陽エネルギーを昼夜を問わず利用できるわけで、太陽光発電より扱いやすいだろう。

液体燃料にしない例としては、サツマイモを乾燥させて燃料にするという構想もある。だがこれは、農家が稲作に執着していると普及させづらいだろう。なぜ、農家は米を作りたがるのだろうか?



バイオマスにまつわる誤解


試験をしたわけではないけれど、バイオ燃料については誤解が多いように感じている。その一つがバイオ燃料製造プラントは、設置するのにも運転するのにも費用がかかるということ。とくに設置費用を回収するためには単年度黒字を続けなければならない。収穫の後3ヶ月ほど動かして、後は閑古鳥というわけにはいかないのだ。規模が大きくなければ経営は成り立たないが、規模が大きくなれば原料調達も難しくなる。北海道のバイオエタノール事業も、複数の作物を原料にできるようにして、価格変動による材料難が生じないようにしているという。...こういうお金の話は得てして技術系の人は弱いのかな。

|

« シマウマ症候群/医学生症候群(用語解説) | トップページ | 「勘助のかなしみ」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: エタノールで良いのか:

« シマウマ症候群/医学生症候群(用語解説) | トップページ | 「勘助のかなしみ」 »