あるロー生の試練(君は立派な法律家になれる だろう)
光市母子殺害事件の最高裁判決が出た。この事件についての感想は5年前に書いた通り。
人生を諦めた者に運命は過酷だ。あの世から正木ひろしを呼び寄せても勝ち目はあるまい。いや、真相はわからないが。
つまり、「下手に争うと情状が悪くなるので、ひたすら〈悪うございました〉で頭を下げ続けろ」という一審の弁護方針が裏目に出て、検事上告に対して口頭弁論が開かれる(=原判決破棄確定で死刑の可能性大に)という土壇場での大ピンチ。上告審をはじめに担当した弁護人はまさかの事態に愕然とし、かくなるうえは尋常の弁論では勝てないと安田弁護士に依頼したようだ。この弁護士と一二審の弁護人が同一かは知らない。
主張の当否は判断できないけれど、使える理屈は総動員して被告人を守るのは弁護人の責務だと納得していた。しかしそれが大量懲戒請求事件に発展したことはご存じの通り。
ちなみに弁護人というものは被告人が「私は死刑になって当然です」と言い張っても、なにか有利な事情はないかと探し「どうか温情を」と弁論するもの。昔、国選弁護人が「弁護の余地がない極悪人」みたいな答弁(?)をしたため死刑が確定した元被告人がその弁護士を訴えて賠償金を勝ちとったことすらある。依頼人のために誠意を尽くす義務があるというわけ。
ところが、そうした事情を知らないまま、あるロースクール生が最高裁判決のニュースに気ままなツイートをした。元が削除されているので残された断片から推測すると、殺意はなかったと言い出したことを揶揄したらしい。
で、銛を持ってダイビング中の弁護士の目に止まった。その後のツイートを見ると複数の弁護士から同様のお小言を頂戴したらしい。晒すつもりはないので、検索されないようやや文言を変えると、君は裁判の経過を理解していない、と。確認できただけで3人の弁護士にお詫びのツイートをしているし、相手を特定せず「事実関係を誤って把握していた」と陳謝。
素人であればともかく、法科大学院生がこれでは困るからね。先輩たちが法曹のレベル維持にかける努力に敬礼。(と、法曹でもないくせにえらそーな一言)
一方で、死刑賛成派からも妙なお叱りを受けていた。その一つが18歳1月は少年ではないというお怒り。しかし、これは変だ。変だと思って調べたら、案の定、少年法でいう少年とは二十歳に満たない者。だいたい少年だからこそ、今までずーっと匿名報道だったわけで、人間怒ると理性がぶっ飛ぶ見本のような話。
とにかく本人はひたすら恐縮しているし、具体的な反省もしているので、これは掩護しておいた。もしかしたら「逆らわず頭を下げておけ」という一審の弁護方針の怖さを体感できたのではないだろうか。
青年よ、失敗は誰かが尻拭いしてくれるうちに大いに経験しておくと良いのだよ。今、取り寄せた判決文を汗をかきながら読んだ経験は、君の慎重さを大いに鍛えたことだろう。立派な法律家になっておくれ(もしかしたら10年後に世話になるかもしれない)。
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