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2012/02/09

引用(用語解説)

自己の作品中に、別の作品を利用すること。

他人の創作物を引用することは、形式的には複製権等の侵害になるけれども、創作における引用の重要性から、著作権法は第五款 著作権の制限において、「私的使用のための複製」「図書館等における複製」に続けて、第32条で次のように引用を認めている。

第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2  国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

ポイントは以下の通り。
第32条の条件を満たせば、他人の著作物を無断で複製できる。
条件としては、引用されるのが公表された著作物であること、引用が公正な慣行に合致すること、そして目的上正当な範囲内であること。

なお、同法第48条には、引用の場合は「著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。」とあるので、出所(出典)を明らかにしなければいけない。


この著作権法上の引用を狭義の引用と称し、広義の引用なるものが存在するかのように主張するものもいるが、それは無断複製/違法複製である。

引用にまつわる誤解



×引用には許可が必要

引用は無断で行うものなので、「無断引用禁止」はナンセンスである。

×引用は一言一句正確でなければならない

正確に利用すべきなのは当然であるが、状況に応じて外語を国語に翻訳する、漢字をカナに変えるなど変更は認められる(第43条および公正な慣行)。

パソコン通信時代に見られた「改行位置変更しました」はほとんどの場合、意味はない。

切り貼り細工によって主張されていないことが主張されているように見せかける行為は、著作権の侵害よりは名誉毀損で訴えた方が確実であろう。なぜならば、著作物の読み取り方を強制することはできないから。

△引用は全体の半分まで

「引用は全体の半分以下に収める」という巷説は、引用部分が主になってはいけないという主従関係説(最高裁判例)と、図書館における利用者への複製は「公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあつては、その全部)」に限るという規定(第31条)を混同した疑いが強い。

そもそも判例はマッド・アマノを被告とするいわゆるパロディ写真事件であって、判決文の中に「半分以下」などとは書いていない。画像の場合、単純なハメコミ合成なら面積で計算しようと思えばできるかもしれないが、〈半分〉の定義が厄介。テキストの中にただ一点ある画像が引用だった場合はどう考えるのか?

×引用する側も著作物でなければならない

現行法には「利用することができる」とあるだけで、旧法(明治三十二年三月四日 法律第三十九号)のように「自己の著作物中に」とは定められていない。

×私信も引用できる

公表されていない私信の著作権は制限されない。手紙を引用する場合は著作権者(ほとんどの場合は発信者)の許可が必要になる。学術論文の文献に「personal communication」(私信)というものがあるが、これを認めている雑誌でも規定には許可を得ることが定められているはず。

×手のかかった作品は許諾を取るべき

そのような慣例をもつ業界もあるかもしれないが、裁判所では通用しない。ただ、〈業界の秩序〉を乱したことに対して、村八分的な報復が行われることは考えられる。なお、この村八分も、個々が契約の自由を行使した結果に留まるうちはまだしも、示し合わせての排除だと、場合によっては独占禁止法等に抵触することもあるだろうから要注意。消費者の自発的ボイコットであれば問題はない。

著作権法第32条とは関係の無い引用


著作物でないもの、著作権が消滅した著作物を引用する場合は、上記の規定は関係しない。ただし歴史上の人物の著作を自作として発表するような行為には、著作権とは別の面で、強い非難が寄せられると考えた方が良い。著作物ではないデータも、剽窃すれば強い非難を浴びる。研究論文でこれを行うと、国によっては公的研究費の差し止めや返還といった処分を受けることもある。マッシュアップと称して他人のデータを利用する場合は注意が必要。

孫引き


出典に直接当たらず、引用しているものを引用することを孫引きという(曾孫引き、玄孫引きなども孫引きで統一)。学生がやりがちなのは、書籍の文献欄に書かれていた出所を、そのまま自分の卒論に文献として書き写してしまう行為。

孫引きには2つの面から問題があり、論文執筆においてはご法度とされることが多い(分野によっては孫引きと明記することで許容)

第一に、端的に言って「見ていない資料を見たように書く」わけであるから、これは捏造(Fabrication)である。捏造(Fabrication)・改竄(Falsification)・盗用(Plagiarism)のいわゆるFFPは研究者にとって命取りになる。素人が権威(と思っている)の研究を引き出して口角泡を飛ばしている場合もこれが多い。とはいえ、ニュートンの原著を読まなくても古典力学は論じられるわけで、そこは表現次第。

科学論文は引用された回数で評価されるが、ある時期、世界で最も引用された論文(=世界一優れた論文)はSDS-PAGEの原報だったという笑い話もある。ローリー法やサザンブロッティング法の原報もよく引かれたであろうが、今なら『生化学実験法』や『細胞工学実験プロトコール』で済ませられる。(マキサムギルバート法の原報が最後に引用されたのはいつだろう?)

第二に、功利的に考えても孫引きには危険が伴う。第一引用者が誤解しているかもしれないし、出典を間違えているかもしれない。俗謡に「親亀こけたら...皆こけた」とある通り。また、こういう例も考えられる。Aが測定をして10という結果を得た。Aは10では不足と考えて「10しかない」と論文に書く。Bはその結果を引用しつつも、5もあれば十分という考えから「Aの測定では10もあった」と書く。これはセーフ。しかしCがAの論文を見ないで「Aは10もあることを見出した」と書くと、Aから「そんなことは書いていない!」とねじ込まれる可能性がある。

基本的には原典に当たること。

ツイッターの場合


ツイッターでは公正な慣行についての合意はまだ形成途上ではないだろうか。そこで若干の考察を行う。

ツイッターには1ツイートが140字までという制限がある。そのため、ツイート中に引用をする場合、出所を明示するスペースが足りなくなることが多いと考えられる。この場合、当該ツイートでは引用であることを示し、前後のツイートで出所を明示するというのが現実的解決ではないかと思う。ハッシュタグを併用すればひとまとまりとして表示することも容易。

なお、1ツイートがまるまる引用である場合に、引用符(「」や“”)の使用などで引用であることを明示しないと、本人のオリジナルであるという誤解を招く。

またツイート自体も著作物になりうるので、ツイートを引用する場合も出所の明示が必要になる。幸い、各ツイートには固有のURIが付与されている。ツイートに引用する場合は、公式リツイートや返信を使うとオリジナルツイートを容易に特定できる。一方、QTとも呼ばれる非公式リツイートは、(クライアントアプリによっては)元のツイートとのリンクが切れてしまうことがある。さらにQTでは引用部分の編集が可能で、字数調整などが可能になる反面、意図を歪めるような悪質な操作ができてしまうという問題を抱える。実際に改竄が行われた事例も報告されている。良い子は真似をしてはいけません。

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