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2011/12/08

アルカリ性飲料水

先日、ツイッター上で質問を受けた。


アルカリ性飲料水があるでしょ?強酸性は殺菌にいいけど飲料水に向かないと聞いた事あるけど、強アルカリ性水ってどうなの?

「昨日朝の私のTLを読んでいただけると助かります」ともあったので、遡ってみる次のようなツイートがあった。


泉があって、その水が凄いアルカリ性。試験液でテストしたら水色に変色する程。OSGて浄水器メーカーの営業マンがしっぽ巻いて逃げ去る土地です。その水が水道水として供給されている奇跡の村です。

それに対して私に質問した人が「そんなにアルカリ性が強いと逆によくないとかはないのでしょうか?」と尋ね、それに対して「水道水はエメラルドグリーンでした。」という謎の回答を受けて「それが地元の皆さんが通常飲んでいる飲料水なのですか?私には知識が乏しく、詳しいフォロワーさんに自分の疑問解決の為にも聞いてみますが体に良いとされる成分も大量、過剰摂取は逆に健康を損ねる危険もあります。」と返していた。この「詳しいフォロワーさん」というのがどうやら私のことらしい。

それで「強アルカリ性水ってどうなの」という質問になったと理解した。

思いつくままに連続ツイートしたものを整理する。

酸と塩基


まず基本的なところから。酸とはなにか? 酸性とはどういうことか? 実は酸の定義には3種類ある。しかし義務教育修了(国民の教養)レベルならば「水に溶けて水素イオンを出すもの」というアレニウスの定義で十分だろう。水素イオンの濃度(の逆数)を対数で表したものがpH(ピーエイチ;以前は「ペーハー」というドイツ語読みだったが、今は英語読み)。pH7が中性で、それより小さければ酸性。pHを計るには試験紙を使う方法とガラス電極を使う方法がある。もっともポピュラーな試験紙はリトマス試験紙。

落ち着いて考えると、水素イオンって、水素原子から電子が一つとれたもので、水素原子が持つ電子は一個だから水素イオンというのはむき出しの水素原子核! その正体はなんと陽子! 食酢の中にはむき出しの陽子が飛び回っているのか? ンなわけはなくて、実際には水分子と結合してヒドロニウムイオン H3O+ として存在しているとのこと。中高では全然気にしなかったなぁ。

酸には鉄や亜鉛を溶かす、タンパク質を固める、ある種の色素(これをpH試験紙に利用)の色を変える、(希薄水溶液には)酸味があるといった共通する性質がある。濃厚な酸を舐めると舌が爛れる場合もある。

この酸の性質と打ち消す一群の物質があり、それを塩基という。塩基性とアルカリ性はほとんど同じ意味(塩基の方が広義)。

酸と塩基が反応(中和反応)すると塩(えん)と水ができる。食べられる塩が食塩(塩化ナトリウム)。「酸と塩基から塩が生じる」を「酸と塩基からしおが生じる」と読み、しお=食塩という理解だと、「消石灰を酢酸に溶かしても塩化ナトリウムが生じるの? カルシウムと酢酸はどこへ消えた? 塩素とナトリウムはどこから来た?」と悩むことになる(経験談)。

酸と塩基にはそれぞれ強酸・強塩基/弱酸・弱塩基がある。強酸の例としては塩酸・硫酸・硝酸、弱酸の例としては炭酸、酢酸、クエン酸など。強塩基の例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、弱塩基の例としてはアンモニアなど。

強酸と強塩基からできた塩は中性だが、強弱の組み合わせでは、塩の性質は強い方になる。たとえば硫酸アンモニウム(硫酸+アンモニア)は酸性、炭酸ナトリウムは塩基性。

毒物として有名な青酸カリは、青酸(弱酸性)と水酸化カリウム(強塩基性)の塩なので塩基性。しかし青酸は炭酸より弱い酸なので、空気中に置くと青酸カリは炭酸カリに変わってしまう。青酸カリは塩であるけれど、相対的に強い酸である炭酸に対しては塩基として働く。塩である炭酸カリや炭酸ナトリウムが塩基とされるのはそのため(硫酸や塩酸に対しては塩基になる)。

アルカリ性水は良い水か


上記の酸・塩基の話でわかるように、飲み水として「アルカリ性が良い」というのはナンセンス。アンモニア水を飲みたいと思いますか? 上述のとおり青酸カリの溶液も強アルカリ性。

大切なのは何によってアルカリ性になっているか。カルシウムなら問題は少ないけれど、たとえば施肥した石灰窒素由来だと考えもの(カルシウムシアナミドに残留毒性はないというが)。

(セシウムはナトリウムの仲間、ストロンチウムはカルシウムの仲間で、水酸化物は強塩基性なので、水に溶ければアルカリ性を示すことが多いんですヨ。もちろんこれと放射能は無関係。なお、アルカリ性がはっきり分かるくらい放射性セシウムが入っていたら、放射能はとても強くなるでしょう。)

閑話休題。水道水質基準値はpH5.8~8.6。その根拠は「自然水のpHがおおむね5~9」だから(東京都水道局)。

水道法では「異常な酸性又はアルカリ性を呈しないこと。」が求められている(第四条)。「厚生労働省令で定める」となっている具体的な数値が「5.8以上8.6以下」(水道法第4条に基づく水質基準(PDF))。

ちなみに「天然のミネラルが豊富だから」と言っても、その水1リットルを蒸発させたときに、500㎎超の残留物があれば飲用不適となる。設備に対する影響も考慮されているのかもしれないが、要は「できるだけ不純物のない水を飲め」ということであろう。

なお、日本の水は概ね軟水であるため、ミネラルの多い硬水を飲むと下痢をするかもしれない。

(3月の混乱の中で、「ミネラルウォーターで授乳用ミルクを作らないで」とメーカーが言っていた。粉ミルク自体が水道水利用を前提にミネラルを調整しているので、ミネラルウォーターを使うとミネラル過剰になる心配があったとか。)

また、地下水が極端に酸性だったりアルカリ性だったりすると、普通(中性)なら水に溶けない有害物質が溶けてくることも考えられる。(普通なら溶けない物質は、検査項目にも上がらないだろう。)

地下水というと、井戸水を連想し、夏でも冷たいきれいな水という印象があるかもしれないが、温泉も地下水である。つまり高温のものもあれば、いろいろな化学成分を溶かし込んだものもある。飲める地下水というのは世界的には少数派という話も。バングラディシュでは、天然のヒ素による地下水汚染で深刻な被害が生じた(NHKアーカイブス「井戸からヒ素が~バングラデシュ・3500万人の苦しみ」で概要が分かるか)。

「試験液でテストしたら水色に変色する」というのが、なんという試験液か分からないのでpHでいくつなのか不明だが、もし飲料可否を判定する試験液だとすると、良くない結果ではないだろうか(「水道水はエメラルドグリーン」というからには「色がついたら飲用不適」はないようだが...対照はどこの水道水?)。

酸性水は飲めるか


次に「強酸性は殺菌にいい」について。極端な酸性では通常の微生物は死んでしまうが、それくらい酸性だと鉄鍋も溶けてしまうかと。これはいわゆる電解水の話であろうか。酸性の電解水に殺菌作用があるとすれば、それはトリック。

(基本的なところですが、水は電気を通しません。濡れた手で電気器具を操作して感電するのは、汗(食塩)がまじったりしているため。水道水も、小学校でやるような「電池と豆電球」テストなら「電気を通さない」となるはず。なお、水を電気分解するときは少量の硫酸などを加える。)

今でも中学で習うと思うけれど、水を電気分解してできてくるのは水素と酸素だけ。でもそれではアルカリ電解水ができない! その通り。で、アルカリ電解水を作る装置には魔法の粉が付いているらしい。

一方の酸性水と呼ばれるアノード(いわゆる陽極)側の水。これは作り方(魔法の粉の種類)によっては強い殺菌力をもつけれど、その正体はキッチンハイター®と同じ。お年寄りならさらし粉といったほうが通じるか。

殺菌力のある酸性水を作る〈魔法の粉〉の正体は食塩(塩化ナトリウム)。食塩の電気分解で塩素が生じ、それが水に溶けて殺菌力のある塩素水になる。塩素水は化学的には次亜塩素酸。キッチンハイター®は次亜塩素酸のナトリウム塩。さらし粉はカルシウム塩。酸性水は遊離の次亜塩素酸水溶液。

(しかし、食塩を使うとアルカリ性水は苛性ソーダ溶液。希薄溶液とはいえ飲んで身体に良いとも思えない。殺菌用に電解水を作っているところはアルカリ性水は飲まないのではないだろうか?)

ちょいとググッたところ、森永乳業が殺菌用電解水生成装置を販売していた。そこには「次亜塩素酸水」と明記されている。そして食塩の代わりに希塩酸を加えているとも。その結果、「アルカリ水を副生せず」と。

添加物(食塩または塩酸)の濃度や通電時間にもよるけれど、塩素ガスがブクブク出るようでは装置は腐食するし、周囲は危険地帯になってしまうので、そのようなことはないであろう。ならば〈酸性水〉は薄い塩素水で酸性もそれほど強くなく、飲んでも害はないと考えられる。しかし大量に飲んでも何か効能が期待できるとも思えない。


ちなみに塩素ガスは、第一次大戦で初めて本格的に使われた毒ガス。毒ガスの中では弱い方であるが、それでも最初の使用で死者5000人を出したという。塩素系の漂白剤・カビ取り剤(カビキラー®など)と塩酸系の洗浄剤(サンポール®など)を混ぜると発生するので混ぜるな危険の標語が生まれた。

カルシウム水


カルシウムは健康に良いというイメージがあるが、飲み水の水質基準では上限が定められている。これは味の問題が大きいと思われる。

使用済みの押入れ乾燥剤(水とりぞうさん®など)があれば、捨てる前に中の液体を極々少量舐めてみると、カルシウムイオンの味を体験できる。特に有害物質が入っているという注意書きは見当たらないが、舐めたら吐き出すことを推奨。(いわれなくても吐き出してうがいすること必定ですけど)

医薬品として使われるカルシウム剤は、内服するものは不溶性(胃酸で溶ける)で、水に溶けるものは注射用。

医薬品としての乳酸カルシウムには服用上の注意がいくつかある。腎臓結石や重い腎臓病の人は飲まない方が良い。つまりカルシウムなら誰でもいくらとっても大丈夫、というわけではない。

この乳酸カルシウムがアルカリ電解水を作るための魔法の粉である。つまりアルカリイオン水というのは薄い石灰水のこと。

塩基の毒性


「強い酸/塩基」と「強い酸性/塩基性」は意味が違う。強い酸(塩基)でも十分に薄めれば弱い酸性(塩基性)になる。

水酸化ナトリウムが別名「苛性ソーダ(かせいソーダ、caustic soda)」と呼ばれ、劇物に指定されているのは、タンパク質分解性があり、皮膚を溶かすこともあるから(目に入れば失明の危険がある)。

ナトリウムのことをソーダと呼ぶのは、英語名sodiumに由来する。漢字で書くと曹達。炭酸水素ナトリウムを重曹と呼ぶのは重炭酸曹達の省略形。炭酸飲料のことをソーダ水と呼ぶのは、二酸化炭素を作るのに重曹を使っていたからか。

しかし固体の水酸化ナトリウムやその濃厚溶液は劇物になるけれど、希薄な水溶液であれば危険は少なく規制もない。たとえばある種のインクジェットプリンタのインクには水酸化カリウムが入っているが、インクカートリッジの購入時に身分証の提示や押印は不要。

校庭のライン引きにも使用されていた水酸化カルシウム(消石灰)は、安全な物質と思われていたが、失明事故が起きている。そのため文科省はすでに使用を控えるよう学校に通知している。

石灰水(消石灰の水溶液)で失明するかというと疑問だし、とても飲めたものではないから飲んで健康障害を心配する必要もないだろう。とはいえもし飲めば、量によっては胃酸が中和され、消化不良や食中毒の危険が高まる(胃液の塩酸には殺菌機能がある)。

まとめ


pHが7から極端に離れている水は水道水として不適格(水道法)。

水の液性(酸性か塩基性か)を決めている物質は何か、その濃度はどれくらいか、結果として総量はどれくらいか、が大切である。

補足


永年にわたって飲用水・農業用水・工業用水としての利用実績があり、それによって〈良い水〉と判定されているならば、それは信頼できる。

特に酒造りのように、外からくる杜氏による第三者評価があれば、井の中の蛙のお国自慢より信頼性がある。

しかし厳密に対照(コントロール)を採っていない以上、経験的な〈良い水〉は案外危ういものと言わざるをえない。

いわゆる〈おいしい水〉も、物理的な因子(温度・溶存酸素)の影響は大きい。(とはいえ、20年ほど前に、大阪のホテルで出された水は、キンキンに冷やされてはいたが、飲めたものではなかった...)

pHのような水の1つの性質を取り出して、それだけが〈良い水〉の決定因子だとするのは、やはり短絡的と言わざるをえない。

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コメント

PHが9.5-10の水が売られていますが、水道水として不適格ということでしょうか??
水道法の基準に違反するのですか??
(5.8以上8.6以下らしいです)
人間が食べるものは米・小麦・肉・魚、美味しいものは全て酸性に傾いていると思うのですが(もともとではなく消化した後最後に残るものが何かという意味で)、飲料水をアルカリ性に傾けることによって体に付加がかからず弱アルカリに保つことができると思っているのですが・・・・
飲み水はアルカリ性に傾いている方が健康にはいいと思っています。水道法は間違っているのでは・・・・・・

投稿: | 2013/06/14 16:00

はぁ。アフィリエイトでアルカリ飲料の広告を載せようかしらん。

投稿: 細川啓 | 2013/06/18 23:21

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