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2011/03/25

複数の知識を持ち寄る 放射能を帯びた酒

今この世界を生きているあなたのためのサイエンス〈1〉』を読んでいたら、意表を突かれる記述があった。

アメリカのアルコールたばこ火器爆発物取締局では、ワインやジン、ウイスキー、ウォッカの放射能を検査します。ウイスキーは、五分の一ガロン(〇・七五六リットル)当たり毎分四〇〇以上のベータ線を出していなければ、人の飲用には適さないと判断されます。

単位は省かれているが、おそらくベクレルであろう。放射能があったら飲めないのではない、放射能がない酒は飲むのに不適当だというのだ。

そして次のページにはこう書かれている。

こうしたことは、少なくとも専門家の間では、議論の余地のないものです。ところが、ほとんどの人たちは、こうした話を聞くとびっくりします。放射能がどういうものかを理解すれば、いま言ったことがどういうことかわかります。前述の事実を聞いて驚くのは、多くの人が、放射能について誤解や勘違いをしているからです。

だが、別に放射能について特別の知識はなくても、ちょっとした教養レベルの知識があれば、それを組み立てることで容易にたどりつける結論なのだ。

生物由来のものには放射能がある


生物は炭素循環の中に身を置いているので、生存中は体内に一定の割合で天然の放射性炭素(14C)を含有している。ところが死んで外から新しい14Cの供給が止まると、体内の14Cはどんどん分解崩壊して減ってしまう。そこで遺跡から発掘された植物体(木材や穀物など)に残っている14Cの量を測定すると、元の植物がいつごろ光合成を止めた(伐採・収穫)かが分かる。

教育課程が変わったので今はどうか知らないが、炭素循環は高校で習ったし、理科好きな中学生なら知っているだろう。エネルギー問題に関心のある人ならカーボンニュートラルでその概念を理解しているはず。

遺跡の年代測定はむしろ文科系の人のほうが詳しいだろうか。wikipediaで放射性炭素年代測定を見ると、縄文土器が世界最古の土器文化である可能性は、この測定法によって示されたとある。放射能の減り具合で年代がわかるのであるから、現代の植物に放射能があるのは自明である(まさか、太古の時代だけ放射能の雨が降っていて、その痕跡を調べていると勘違いしている人はいないだろう)。

植物が微弱ながらも放射能を帯びていれば、そこから醸造された酒(エタノール)にも放射能(14C)はある。

ここまでが第一の知識群。植物(生物)は放射能を帯びており、新しい植物から作られた酒にも放射能はある。

生物由来でも石油には放射能がない


ところが石油には14Cはない。なぜならば、石油の成因には諸説あるが、生物成因説をとっても、元の生物が大気中の14Cを最後に取り込んでから数億年を経過しており、5730年で半減してしまう14Cは検出できないほど微量になってしまうから。

次がエタノールの作り方。日本では発酵法が大部分であるけれど、実は石油から作ったエチレンガスに水を反応させるとエタノールが作られる。
C2H4+H2O=C2H5OH
このエタノールには14Cは含まれない。

石油からエタノールを作る方法は、発酵法に比べて、高濃度のエタノールを必要とするときに特に有利となる。発酵法で得られるエタノールは20%程度で、濃度を高めるためには蒸留が必要になるからだ。石油が安いUSAでは工業用アルコールは、この合成アルコールが多いと考えられる。

第二の知識は、いわゆる天然モノではない(石油)化学合成品は放射能を帯びていないということ。合成アルコールと醸造アルコールは放射能で識別することが可能ということが導きだされる。

合成エタノールは粗悪な酒の原料になる


日本でも合成清酒とか三倍増酒という怪しげなシロモノがある。乱暴に言うと醸造酒の不足を補うためにアルコールを水で割って味をつけた紛い物。彼地の事情は知らないが、醸造して蒸留して樽に詰めて寝かせるウイスキーよりも、工業用アルコールに色と味をつけた紛い物ウイスキーなら安く作れるのは想像に難くない。そしてこの合成ウイスキーは(本物ならあるはずの)放射能を帯びていない。

そのような合成酒が規制されるのは税の問題かもしれないが、人の飲用には適さないということからすると工業用エタノールには飲まれないように化学物質を混入してある(変性アルコール)からかもしれない。あるいはメタノールを使った粗悪品を警戒しているのかもしれない (合成メタノールも放射能を持たない)。

ちなみに化学系の学生は試薬である特級エタノールを蒸留水で割り、アミノ酸やフマル酸などで味付けして酒を作るのが好きだが、デキのいい大学では無水エタノールの使用はご法度になっている(ベンゼンを含むから)。

閑話休題。第三の知識として工業用の合成アルコールは酒もどきに使われる可能性がある。この知識もむしろ文科系の領分かもしれない。カストリとかバクダンの世界である。

まっとうな酒には(弱い)放射能がある


これらを組み合わせると、放射能が全くない酒は飲用に適さない(可能性がある)という結論が導かれる。

ちなみに検出されて良いのは14Cから出るβ線であろう。

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