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2011/03/25

複数の知識を持ち寄る 放射能を帯びた酒

今この世界を生きているあなたのためのサイエンス〈1〉』を読んでいたら、意表を突かれる記述があった。

アメリカのアルコールたばこ火器爆発物取締局では、ワインやジン、ウイスキー、ウォッカの放射能を検査します。ウイスキーは、五分の一ガロン(〇・七五六リットル)当たり毎分四〇〇以上のベータ線を出していなければ、人の飲用には適さないと判断されます。

単位は省かれているが、おそらくベクレルであろう。放射能があったら飲めないのではない、放射能がない酒は飲むのに不適当だというのだ。

そして次のページにはこう書かれている。

こうしたことは、少なくとも専門家の間では、議論の余地のないものです。ところが、ほとんどの人たちは、こうした話を聞くとびっくりします。放射能がどういうものかを理解すれば、いま言ったことがどういうことかわかります。前述の事実を聞いて驚くのは、多くの人が、放射能について誤解や勘違いをしているからです。

だが、別に放射能について特別の知識はなくても、ちょっとした教養レベルの知識があれば、それを組み立てることで容易にたどりつける結論なのだ。

生物由来のものには放射能がある


生物は炭素循環の中に身を置いているので、生存中は体内に一定の割合で天然の放射性炭素(14C)を含有している。ところが死んで外から新しい14Cの供給が止まると、体内の14Cはどんどん分解崩壊して減ってしまう。そこで遺跡から発掘された植物体(木材や穀物など)に残っている14Cの量を測定すると、元の植物がいつごろ光合成を止めた(伐採・収穫)かが分かる。

教育課程が変わったので今はどうか知らないが、炭素循環は高校で習ったし、理科好きな中学生なら知っているだろう。エネルギー問題に関心のある人ならカーボンニュートラルでその概念を理解しているはず。

遺跡の年代測定はむしろ文科系の人のほうが詳しいだろうか。wikipediaで放射性炭素年代測定を見ると、縄文土器が世界最古の土器文化である可能性は、この測定法によって示されたとある。放射能の減り具合で年代がわかるのであるから、現代の植物に放射能があるのは自明である(まさか、太古の時代だけ放射能の雨が降っていて、その痕跡を調べていると勘違いしている人はいないだろう)。

植物が微弱ながらも放射能を帯びていれば、そこから醸造された酒(エタノール)にも放射能(14C)はある。

ここまでが第一の知識群。植物(生物)は放射能を帯びており、新しい植物から作られた酒にも放射能はある。

生物由来でも石油には放射能がない


ところが石油には14Cはない。なぜならば、石油の成因には諸説あるが、生物成因説をとっても、元の生物が大気中の14Cを最後に取り込んでから数億年を経過しており、5730年で半減してしまう14Cは検出できないほど微量になってしまうから。

次がエタノールの作り方。日本では発酵法が大部分であるけれど、実は石油から作ったエチレンガスに水を反応させるとエタノールが作られる。
C2H4+H2O=C2H5OH
このエタノールには14Cは含まれない。

石油からエタノールを作る方法は、発酵法に比べて、高濃度のエタノールを必要とするときに特に有利となる。発酵法で得られるエタノールは20%程度で、濃度を高めるためには蒸留が必要になるからだ。石油が安いUSAでは工業用アルコールは、この合成アルコールが多いと考えられる。

第二の知識は、いわゆる天然モノではない(石油)化学合成品は放射能を帯びていないということ。合成アルコールと醸造アルコールは放射能で識別することが可能ということが導きだされる。

合成エタノールは粗悪な酒の原料になる


日本でも合成清酒とか三倍増酒という怪しげなシロモノがある。乱暴に言うと醸造酒の不足を補うためにアルコールを水で割って味をつけた紛い物。彼地の事情は知らないが、醸造して蒸留して樽に詰めて寝かせるウイスキーよりも、工業用アルコールに色と味をつけた紛い物ウイスキーなら安く作れるのは想像に難くない。そしてこの合成ウイスキーは(本物ならあるはずの)放射能を帯びていない。

そのような合成酒が規制されるのは税の問題かもしれないが、人の飲用には適さないということからすると工業用エタノールには飲まれないように化学物質を混入してある(変性アルコール)からかもしれない。あるいはメタノールを使った粗悪品を警戒しているのかもしれない (合成メタノールも放射能を持たない)。

ちなみに化学系の学生は試薬である特級エタノールを蒸留水で割り、アミノ酸やフマル酸などで味付けして酒を作るのが好きだが、デキのいい大学では無水エタノールの使用はご法度になっている(ベンゼンを含むから)。

閑話休題。第三の知識として工業用の合成アルコールは酒もどきに使われる可能性がある。この知識もむしろ文科系の領分かもしれない。カストリとかバクダンの世界である。

まっとうな酒には(弱い)放射能がある


これらを組み合わせると、放射能が全くない酒は飲用に適さない(可能性がある)という結論が導かれる。

ちなみに検出されて良いのは14Cから出るβ線であろう。

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単位をそろえて考えよう 210ベクレル/kgとは

22日に東京の金町浄水場で水1kgあたり210ベクレルの放射能が検出されて大騒ぎになった。

でもほとんどの人が「210ベクレル」の意味を実感していないと思う。ニュースを注意深く見た人は暫定規制値100ベクレルの2倍ということに気づいたであろうが、ではその暫定規制値とはなんぞやを説明できる人はほとんどいないのではないだろうか。

また「乳児による水道水の摂取を控えて」という発表を受けて、どうしたら安全になるかが話題になり、煮立たせたらどうだろうとか浄水器はどうだろうと賑やかになった。一時は塩素からの連想で「煮沸すれば揮散する」と言われたが、実験したところヨウ素は揮散せず、水が減った分だけ濃くなると分かってまた大騒ぎ。単体(=化合物になってない)なら揮散しただろうが、ヨウ化物イオンとかヨウ素酸イオンになっていたと思われる。(この実験を、水にヨウ素を加えて煮立たせるという系で組んでいたらと思うと、水道水とそれを煮立たせたもので放射能を測定したことに敬意を表したい。)

単体ヨウ素なら活性炭に吸着されるだろうが、ヨウ化物イオンだったらどうだろうか。海水を炭に通しても真水にはならないだろうから、たぶん無駄。そもそも吸着と言っても、1原子も残さずに取り除くわけではない。もともとヨウ素が極めて薄かったら素通りだろう。〈極めて薄い〉ってどれくらい? 1ベクレルというのは1秒間に原子1個が壊れて出る放射線。18gの水(約18ml...たとえば目薬1本分)には水分子がおよそ6×1023すなわち600,000,000,000,000,000,000,000個。1kgならこれの55.56倍。210ベクレル/kgならこの膨大な分子の中に210個の放射性ヨウ素原子が、と言いたいところだが、1秒間に210個壊れている(崩壊している)ので実数は分からない(直感的にものすごく少ないとは分かるが)。ではこれを%とかppmに換算してみよう。

wikipediaでベクレルを見ると、「ベクレルと原子核の個数」という項目があり、計算方法が載っている。

226ラジウムを例に、半減期が1600年で1gには2.66×1021個の原子があるので3.64×1010ベクレルである、と。逆算すればベクレルから重量が出せるのだが、慣れないのでまずヨウ素131が1gあったら何ベクレルになるかを計算する。

ヨウ素131の原子量は131
ヨウ素131の半減期は8.02日=692928秒

核種ラジウム226ヨウ素131
半減期1600年8.02日
原子量226131
1gあたりの原子数2.66×10214.60×1021
1秒間の崩壊数3.66×10104.60×1015

で、計算が正しければ4.6×1015ベクレル。ラジウムの計算値がwikipediaと微妙に異なるのは有効数字を考慮しないままExcelで計算したためだろう。210ベクレルだからこの逆数を210倍すればよろしい。すなわち4.6×10-14g

10-14とはSI接頭辞で言うとピコ(10-12)よりも小さい。

1gの千分の一が1mg(ミリグラム)
1mgの千分の一が1μg(マイクログラム)
1μgの千分の一が1ng(ナノグラム)
1ngの千分の一が1pg(ピコグラム)

つまり金町浄水場の水1kg中にヨウ素131は約0.05pgあったというわけ。どのくらい少ないか視覚的に分かりやすくすると
0.000000000000046g

%で表すと0の数を間違えそうになる。微量を表すので有名なppm(百万分の一)ではどうであろう。4.6mg/lならば1ppmである。そのまた千億分の一。(慣れない桁数なのでどこかで間違えていそう)

おそらく放射線以外では存在すら確認できないくらいの微量である。仮に単体であっても活性炭で取り除くことは難しいだろう。

またイオン交換樹脂で取り除くのも非現実的に思えるが、これについては識者の意見を待つ。

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2011/03/13

リツイートの作法

11日の地震が収まってさほど時間の立たない頃、救出を求めるツイートがリツイート(RT)されてきた。

地震が起きた時、社内サーバールームにいたのだが、ラックが倒壊した。腹部を潰され、血が流れている。痛い、誰か助けてくれ。ドアが変形し、安定した情報が流れるまでは誰も動いてはならない旨が館内放送で流れている。それでは遅すぎる。腕しか動かない、呼吸ができない。助けを呼ぶことができない。

これは大変だと思った。だが救急へ通報しようにも所在地が分からない。そこでプロフィールを見ると東京の人だと判明。同時にすでに救急出動要請がされているなど事態が変わっているかもしれないと前後のツイートを見ると...なんか異様。

落ち着いて文面を読み直すと、まるで下手な小説のようだ。救出を求めるリアリティが感じられない。普通なら「助けて」「私は××(名前)」「会社は××(名称・連絡先)」という情報を盛り込むし、文章ではなくて電報文のようになるだろう。

しかし「もし本当に瀕死の重傷を負った人だったら?」と思うと安易にデマ判定はできない。結局リツイートしてきた人に返信はせず、いたずらではないかという疑念を表明してから精査に移る。

まずプロフィールに書かれている住所。Google で調べると実在する。しかしストリートビューで確認するとサーバルームがあるような建物には見えない。これでは救急出動を要請しようにも、どこへ行ってくれと指示できないではないか。というわけで打ち切り宣言

ところがひょんなことから急展開。別アカウントで冗談だったと明かしているという情報が。調べてみると確かにそのようなツイートが。

だから RT 嫌いなんだよ。お前等どんだけ連鎖させてんの。馬鹿だなー。

プロフィールと見ると同じ住所が〈場所〉に書かれている。速攻で作ったなりすましアカウント、という可能性には考え及ばず同一人物判定。

お前、自分のやったことが分かってるのかと憤慨しつつも、リツイートの履歴(本人宛メンション)を見ると「もう少し考えて行動しろよ」と言いたくなった。

種が明かされてみると、見えなかったことが見えてくる。たとえば最初に見た端末では無理なのだが、端末を変えると件のツイートはウェブから投稿されていることが分かる。倒れたラックの下敷きになってパソコンを操作できるか? たまたまノートパソコンが手元にあって操作できるならメールが使えるではないか。それをいうなら携帯電話を持っているならツイートではなくで通話が先だ。会社の番号ならアドレス帳に入れているもの。あんな長文を打てるなら電話をかけられないはずがない。119なら目をつぶっていても発信できる。

いっそのこと「両腕が潰された」とか「血が目に入って何も見えない」「傷口から心臓が見ている」とか書いておけば「嘘に決まってんだろ」という弁解も成り立ったかもしれない。それでも反論する猛者はいるだろうが。

そうなのだ。こいつがいい歳して子供みたいなイタズラをして度がすぎるというのは当然なのだが、軽率にもリツイートして、後から死んじまえなどと罵っている人たちにも問題があると思っている。

要するにチェーンツイートなのだ。今回は「拡散希望」と本人は書いていない(書いていたらやはり「ネタと分かるでしょ」論を補強)。フォロワーの誰かが真に受けてリツイートし、本人を知らない〈孫フォロワー〉が拡散させてしまったのだろう。どうも本人の意識ではネタ専用(ウソばかりツイート)アカウントで、真に受けられるとは思っていなかった節がある(糸柳のデマツイートまとめ参照)。そうすると誰が最初に持ち出した(元ツイートのアカウント属性を知らない人達の間に広めた)のか。

それはともかく、その後の動きは「Rhマイナスの血液が不足して」とか「ペットショップが倒産して子犬が」とかと同じ展開。すなわち〈自分では直接助けられない人たち〉が〈善意から〉次々とリツイート。

この「血液が不足」はチェーンメールでも有名で、前世紀からいくども流れている。ある時は中に書かれていた病院に問い合わせが殺到し、業務に支障をきたす事態も起きている。

「ペットショップが」の2010年版では連絡先として書かれた実在のペットショップ(無関係)に電話が来て「犬殺しのブリーダー」などと罵倒される事態に。悪いのは早とちりして電話をし、憂さ晴らしなのかなんなのか話も聞かずに怒る人たちですが、広めた人たちにも責任があります。

あ、これについては以前も書いている。

ボタン一つで実行できるリツイートはチェーンメールと親和性が高い。公式リツイートであれば元を削除すると自動的に消えるらしいが、非公式リツイートはいつまでも残りうる。で、2年前に終わった手術用の血液を求めるツイートが【緊急】とか【拡散希望】というタグ付きで広まる次第。

リツイートではなく返信でも、2時間前に質問が出て、1時間前には解答が集まっている問題にドヤ顔で回答して恥ずかしく思ったようなことが何度かある。リツイートや返信には注意が必要。

リツイートと返信の注意



  • リツイートは公式リツイートを原則とする(twjからのお願い

  • 非公式リツイートの公式リツイートは避ける(元の発信日時が分からなくなる)

  • コメントを付ける場合も、先に公式リツイートしておいた方が良い

  • コメント付きリツイートあるいは返信をする前に、後のツイートを確認する(解決済み問題に回答したり、修正済みの誤りの指摘をしたりするのを避けるため)

  • 知人以外の場合はプロフィールや直近のツイートを確認する(botやネタ専用アカウントのことがあるし、リツイートされるのを嫌う人も実在する)

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入試の公正性:ソーシャルカンニングをめぐって

(書き上げて投稿しようと思っていたら地震が起きて、とても場違いな感じがしたので寝かせていた。)

19歳の予備校生が入学試験の最中に、Yahoo!知恵袋に問題を投稿して回答を得ていた。これが発覚してからの大騒ぎはご存じの通り。

ツイッターを眺めているうちに、人々の反応は様々だが、大学関係者の反応は概ね揃っているように見えることに気がついた。もちろん例外はあるだろうが、どう揃っていたかというと、京都大学が被害届を出した(後日取り下げ)のは正当だし、警察が少年を逮捕したのも妥当だったというもの。

別に大学関係者が保身に結束したと言いたいのではない。入試は機密保持が強く要求されており、外部の者にはうかがい知れぬ御苦労があるのであろう。情報が非対称なのだから異なる判断をされるのも当然である。

だが、どうも釈然としなかった。論点は複数ある。

カンニングは業務妨害(犯罪)か


俗論の筆頭であろうか。これは連日トップニュース扱いを続けたマスコミへの批判も含まれるが、大学に絞って考えてみよう。まず入試の不正は過去にもあったし、今年に限っても少なからずあった(発覚したが非公開で処理された/発覚を免れた)と考えられる。しかし警察に持ち込まれたのはおそらく本件だけ。

これに対しては発覚当初は単純なカンニングとはわからなかったという反論がある(たとえば東京大学先端研の玉井克哉教授)。うーん、どう考えても単純なカンニングでしょう、というのは素人の謬見なのだろうか。たしかに営利を目的としたカンニングネットワークが存在すれば、大学にとっては脅威ではあろう。だが朝日新聞紙上(3月5日)で貴志祐介(作家)が指摘しているように、組織があるなら今ごろ「何とバカなことをしてくれたのか」と頭を抱えているかもしれないと考えるのが常識ではないか。同じ紙面で小田嶋隆(コラムニスト)も「大したヤツの犯行じゃない」と冷ややかなネットの声を紹介している。被疑者が特定される前の段階(2月27日)で、「捨てアカウントを使わないとは大胆なのか真性なのか。」という私のツイートに応えた朝日新聞の記者も真性だろうという感想を述べている(真性とは〈真性のバカ〉〈天然ボケ〉という意味)。もちろん、余人にはうかがい知れぬ事情をご存じの大学人が揃って「組織犯罪の可能性がある」と考えたのは理由のあることかもしれないが。

いや、拍子抜けする真相の概要が判明した現在でも業務妨害だという主張はある。たとえば再び玉井教授。業務妨害罪の成立に疑問を投げかける小倉弁護士に「その通り」とは答えているけれど、「起訴しないという判断もありえます」と、裏返せば起訴は可能であると。ちなみにこの玉井教授は、刑事法が専門ではないけれど法学者。

入試は大学の最も重要な業務なのか


しかし、である。もし入試、つまり入学を許可するけれども、その後の行状によっては卒業させないことも可能な、言ってみれば予備選抜におけるカンニングが業務妨害であるならば、大学の教育機能における最重要課題であろう学位(学士)認定、つまり卒業判定に対する不正のほうが重大な業務妨害であり犯罪ではないだろうか? なにしろいったん「◯◯大学学士」として世に送り出してしまったなら、それを取り消すのは容易なことではない。「あの大学の卒業生はインチキ学士」などという評判が立ったら深刻な事態。必修科目の試験における不正はもちろん、選択科目であろうと卒業に必要な単位数を不正に取得したのなら卒業判定を誤らせる重大な行為だ。だが、そんな話はとんと聞かない。聞こえてくるのは京都大学なんてカンニングし放題だったという揶揄の声(日頃は荒れるコメント欄も本件については無反応)。

たとえるならばまんじゅう屋に運び込まれるあずきに金属片を混ぜるのと、出荷されるまんじゅうの中に金属片を入れるのと、どちらが犯罪として重いか。まっとうなまんじゅう屋ならば製造工程で金属片は取り除かれるし、残っていても出荷前検査ではねられる。

入試の目的はなんなのか


どうも私の違和感は入学試験のあり方に向いているらしい。

といっても選択式筆記試験に異論があるわけではない。親の出身地や職業を問わない学力試験による選抜は反身分制的と説く芦田宏直教授の8時間講演(参加者のツイートがまとめられてあるほか、ロゼッタストーンが本にまとめるべく鋭意編集作業中)の影響でペーパーテストへの評価が変わった。家庭科で実技試験をせず、筆記試験それもできれば記述式ではなくて◯×試験で、技能を判定できるのが教師だという挑発はなかなか刺激的(やらせてみなければ分からないというなら建築学科では家を建てさせなければ卒業させられないではないか、の方がマイルド)。ちなみに3月の帯広4時間講演はUSTで配信され、録画を見ることができる。

入学試験というのは、その学校の授業について来られるかどうかの判定だ。それが正常に機能していれば、その実力がない者が不正な手段で潜り込んだとしても、授業についていけず、留年・退学の憂き目に逢うだけではないか。「カンニングで入学しても、あとあと苦労しますよ。授業について来られないかもしれませんね。ふふふ」と鷹揚に構えていれば済む話ではないのか。

もちろんそんなのが建前であることは百も承知。仄聞するところでは、入試で合格させた以上、留年させるのはおかしい、成績不良による退学なんてもってのほか、という文科省からの圧力に大学は曝されているらしい。

実態はどうかというと、しばらく前に日本橋学館大学のシラバス(PDF)が話題になったが、どこの学校も初年次教育(リメディアル教育)は必須らしい。建前が崩壊しかかっているときに建前を振りかざすのは、当事者にしてみれば腹立たしい事この上ないだろうけれど、建前を守る努力を放棄したらもっと凄惨で荒涼とした世界がひらけてしまうことは忘れないでほしい。

なお、その日本橋学館大の初年次教育内容は確かに唖然とする内容だが、そこから始めて4年間で再生するならばむしろ大したものと言える。揶揄嘲笑するツイートが多い中で「あそこからこのレベルを目指せるのならば,むしろ凄いことと思うよ。」という指摘もある(togetterでの2011-02-19 21:45:23のコメント)。残念ながら例示された専門科目のシラバス(PDF)のレベルは評価できないが、当のツイート主は大学関係者とあるので、たぶん「このレベル」は大学レベルなのであろう。

また英語はダメでも何か(専門に関係する)一科目が飛び抜けて良い成績の場合は合格させるという方針であれば、こういう初年次教育は妥当といえよう。一般論として。

閑話休題。入学試験が大学で学ぶ能力を確認するものであるならば、不正を恐れるべきは大学ではなくて受験生である。就職難とは言われているが、体力に自信もないのに自衛隊(制服組)にズルをして潜り込もうと考える人はいないだろう。そんなことをすれば訓練で地獄を見るのは自分だからだ。

入学試験の公正性とはなんなのか


「不正をして合格する学生が入れば、そのあおりで真面目に試験を受けた学生が不合格になる」と口を尖らせる人も多いようだ。

しかし、それと同じ問題は滑り止め受験でも発生する。自分に自信がなくて、実力よりも易しい学校を受ける受験生がいても同じことだ。そんな奴が「単願です」なんて割り込んできたらカツカツの連中はたまったものじゃない。

不正で成績上位に潜り込む輩がいたとしても、合格レベルに達していない受験生が文句をいうことではない。問題は合格レベルに達しているにも関わらず合格させないことにある。

もちろん定員というものが制度的にも物理的にもあるから「基準に達した者は全員合格」というわけにはいかない。それで上位から順に選んでいくわけだが、たとえばその50番目と51番目とに絶対的な差があると考える方がどうかしている。それならば小飼弾も主張していたように、必要最低限の学力はある者の中からくじ引きで決めたほうがフェアではないか。入試成績と入学後の成績に正の相関関係があるのなら、たとえば上位20%はくじ免除でも良い(それでも最下位と次点の差なんて誤差みたいなものであろう)。

入試を前向きに改革しようという意見が見られないことも苛立ちの原因かもしれない。

故意をめぐって


この流れとは別に、故意の成立にも疑問を持った。

気付かれずに不正に入学することも業務妨害であるというのなら別にして、aicezukiには入試業務を妨害しようなどという意図は全くない。今回はたまたま京都大学の試験問題だと気がついて大学に通報する者がいたので大騒ぎになったけれど、たとえば同志社大など3週間前に同じことをされて全く気がつかなかった。当然、業務に何の問題も生じていない(気づかなくても不正行為は業務妨害だというなら別)。

刑法は原則として故意がある場合しか罰しない(刑法第38条)。もちろん過去色々な弁明が出され、それぞれ裁判例が出ていて、素人が新説を出す余地など無いが。

ある法曹は、バレるかも知れず、その結果大学の業務が混乱するかもしれない、しかしそれもやむを得ないと考えていたなら未必の故意が成立するだろうと教えてくださった。3校で成功した後の京都大学(本命?)ではバレるとは思ってなかったんじゃないでしょうか。

「遅刻入室可能な時刻に入試問題を外部に持ち出したから業務妨害だ」という意見もある。これには一瞬、なるほどと頷きかけてしまった。しかし大学の入試問題だとは〈知恵袋〉には書いてなかった。したがって試験関係者以外が、試験問題だと気づくのは試験終了後に限られる。

かつて、就職の決まった高校生を「(あの)信用金庫は危ない」と同級生がからかったところ、話に尾鰭がついて取り付け騒ぎに発展したことがある。大蔵省(当時)や日銀までが沈静化に乗り出す大騒動で、警察が信用毀損業務妨害罪で捜査したところ、悪意のない冗談が発端だと判明した。件の女子高生はもとより、噂が広まる過程で預金を引き出せと周囲に具体的な指示をした成人にもお咎めはなかったようだ。信金の業務を妨害しようという意図がなかったからではないか。30年以上前の話だから、今は違うのかもしれないが。

という感じで、どうも釈然としない。

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2011/03/07

書籍の自動販売機

久しぶりに某私鉄のT駅に降り立ったところ、珍しいものを見かけた。書籍の自動販売機と言ったら、前面がハーフミラーで、夜にならないと中身が分からないもの、と思っていたが、これは昼間から堂々と売れるもの(ちなみに撮影は17:40ころだが、見ての通り十分に明るい)。

15種類の文庫本を展示するホームの自動販売機。小説、レシピ、雑学など。


もっとも調べてみると、すでに2007年から始まっていたものらしい。そういえば機械も新品という感じではなかった。

首都圏の駅のキオスクに文庫本の自動販売機が登場した。意外な組み合わせが、意外な人気を呼んでいるようだ。

「活字をめぐる風景としてとても新鮮。マニアックな品ぞろえにも興奮して、思わず写真まで撮ってしまいました」。作家の亀和田武さんは、実際にホームで見た時の驚きをこう語る。

文庫本自販機が池袋、恵比寿、田端、中野、西日暮里のJR5駅に登場したのは今春から。お金を投入して商品番号を押すと、本がドスン、と落ちてくる。

1台の機械に16点が並ぶ。たとえば京極夏彦『魍魎(もうりょう)の匣(はこ)』、安野モヨコ『美人画報』、水木しげる『総員玉砕せよ!』……。亀和田さんが言うように、確かに傾向がつかめないラインアップだ。

(asahi.com ひと・流行・話題 2007年12月19日)

面白いのは講談社のコメント。今まで思い込みで商機を逃していたんですね。


「文庫本ならではの新しいシステムなのかもしれない」と吉田部長は言う。「表紙だけで買うだろうか、本が落ちてくることに抵抗があるのでは、という心配は出版社の思いこみだったようです。クレームもない。言う相手がいないのかもしれませんが」

ドスンと落ちることに抵抗があるなら電子書籍は如何? コインを入れて携帯電話を近づけたら電子書籍が2秒でダウンロード、という機械なら本の補充も遠隔操作可能。電子マネーを使えば集金や防犯さえ省力化できる。

〈お任せダウンロード〉なら客が機械の前であれこれ迷う必要もない(購入履歴と照合して二度買い防止)。新聞なら月極1000円あるいは21回分1000円とか。

売り上げは上がるだろうけど、労働市場を浸食するかもしれない、というのが悩みの種。

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