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2011/02/15

(電子)書籍がタダになる可能性

先に、電子書籍になって書籍が安くなると言っても、せいぜい半分だろうというエントリーを書いた。本体価格1000円の本を例に、まず印税が100円(10%)かかり、仮に制作作業をすべて作家本人がやったとしても(この場合、作家の取り分は実質減少する)、さらに配信や決済の費用が必要だから当面は半額という推定。すると「1/10になる」と主張していた方からメールが来た。私信なので無断公表ははばかられるが、ご都合主義的にねじ曲げたと思われないために、あえて原文を示すと次のとおり。

作家の村上龍が起業した電子書籍会社では、著者の取り分は40%だそうです。取り分の四割が100円だとすると、電子書籍の定価は250円ということになります。

1000円の本を例に出した議論へのコメントだから、紙版なら1000円と考えてよいだろう。現行の印税10%とも平仄が合う。250円は、小学生でも分かるように1000円の1/4。事実上1/10説の撤回か。「いや、それでも細川の言う半分よりは安くなる」と言いたいのかも知れないが、先に1/10を唱えたのはそちら。数値を出したらそこが標的になるって、30mの大浪事件で痛い目にあったはずなのに、もうお忘れか。この先、それで痛い目に会うことはないだろうが、閻魔様の前で「私が犯した罪は三つです」なんて言い切って「本当か」と閻魔様が浄玻璃鏡を持ち出したら舌抜かれますよ。

ちなみに村上龍が相手にするのは、そこそこ売れる作家だろう。部数が出れば単価を抑えてもペイできる。前回も指摘したように最終的に問題になるのは金額であって%ではない。利益率100%でも年商100万円では会社は立ち行かない。

また「結論」と「補足」で分析したように、本によっては相当安くなることも考えられる。

ただ、そのときは触れなかった価格決定要因が2つある。一つは広告(書籍の民放化)。もうひとつはフリーミアム方式。

現状でも雑誌の価格は広告費によってかなり安くなっている。なかにはフリーペーパー(フリーマガジン)なんてものもある。書籍には自社広告以外載せられないという慣行(?)が電子書籍に持ち込まれなければ、製作費をカバーするくらい可能になるかもしれない。実際、ある技術書で「広告ではない、参考資料である」という理屈でメーカーから製品情報を寄せていただいたことがある。

電子書籍に載せた広告は、購入行動に移るまでの障壁が低いので、紙に載せるより強気に価格設定可能。しかも電子書籍端末がオンラインであれば随時差し替えることまでできる。また効果測定ができるので、基本料金+実績、つまり電子書籍一冊一冊がアフィリエイトサイトになることも考えられる。これは決済情報とひもづけるとプライバシー侵害になりかねないが、逆に一部の消費行動のプライバシーを買い取る(値引販売)ことで、書籍購入者ごとに異なる広告を載せて広告商品の購入率向上を図ることができるようになるかもしれない。版元ではなく書店(取次)が広告を管理するわけだ。(書店のレジで本と一緒に広告を袋に入れるのと同じ) 版元には広告費としては入らなくても、卸値を上げる形で還元可能(本の中に広告を入れるには版元の協力が必要)。

フリーミアムにはいろいろな形態がありえる。第一章だけあるいはダイジェスト版や機能制限版を無料または安価で頒布し、全部を読むには正規料金を取る方法。本体は無料で質問権を有償にする方法(参考書など)。ダウンロード後一定期間で読めなくなり、再度読むにはキー購入が必要になる方法。フリーミアムとはちょっと違うが、読んで価値があると思った方からお代をいただく投げ銭方式もある。宗教書は無料で配って献金を受け付ければ、非課税収益になる、なんて邪なことを考えてはいけません。(理由は忘れたけれど、値段をつけないと流通上?不利益があり、1円とか10円とかの値付けをするものがあったけれど、あれはなんだったか。)

画像データをPDFにして印刷不可にしたものはもっとも簡単な機能制限版。

これらを導入すれば普通に印税を払って、特に手抜きをしない電子書籍も非常に安く、ひょっとすると無料で頒布されるようになるかもしれない。

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