私たちは騙されている、のだろうか
ディスカヴァー・トゥエンティワン主催のサイエンスカフェ「味だけではない「おいしさ」の裏側」に行ってきた。サブタイトルは「食感性工学が解き明かす、食品と私たちとのコミュニケーション」。
受付を済ませ会場に入るとなんか様子が変。部屋が左右に仕切られていて、私は右側に誘導される。席には評価記入シートなるものがあり、聴衆参加の実験をするらしい。やがて液体の入ったコップが2つ配られる。注意書きにしたがって飲みながら評価を記入。こちらはブラインドテストだが、部屋の左側の人たちは同じものを市販のPETボトルから注いで飲んでいた。
この結果はすぐに集計され、後半になって発表されたが、結論から言うと「見事騙されましたね」。講師自らが、「この人数(サンプル数)でこれだけハッキリ出るとは」と呆れるほど、ブラインドテスト組とパッケージを見て飲んだ組とでは味の評価が違っていた。まさに美味しさは味だけではない。見た目とかCMのイメージとかも一緒になって総合的に「味わって」いるわけだ。...これって高度な情報処理とも言えるけど、やはり「騙されて」るような気もする。
会場では質問し損ねてしまったが、つまり、お客様には湯呑みやコップでお茶を出すよりも、PETボトルのまま出した方が「おいしく」感じていただけるということだろうか。とはいってもPETボトルをどすんと出されるよりは、湯呑みを笑顔で「どうぞ」とすすめられた方が「おいしく」ないだろうか。ミス茶摘み娘級でなければPETボトルとコップの方が「おいしく」感じるかな。
話がずれた。中身が同じならば認知されたパッケージを前面に出した方が「おいしく」感じる。ある指標に至っては、CMの作り方で感じ方が違ってしまったらしい。だとすると、安いお茶を有名な茶飲料のボトルで出したら、やはり「おいしく」感じるのではなかろうか。それで代価を取ったら詐欺だけれど、もともと無料で出すお茶ならば、主観的であれ「おいしく」飲んでいただいた方が好ましくないか。
いま「代金を取ったら詐欺」と書いたけれど、値段も「おいしさ」に影響する(これを認知的要因と呼ぶ)。民放テレビでやっていたことなので話半分八掛け二割引ではあるけれど、2回に分けてミカンを食べさせ、その間に高級品だと値段を告げると2回目は美味しく感じるという「実験」を見たこともある。
ならば高価格と誤認させることもサービスと言えなくはない? 道徳的な人にも納得していただくには「高いものだけど特別に」と安い(適正な)料金を取るのが落としどころだろうか。でも本物ならば原価の何倍の料金をとっても(合意の上だから)合法と言うのとややバランスを欠くような。
人気のあるモデルや女優を採用した広告を打てば、その好感度に応じて「おいしく」感じられる。それが邪道のように感じるのは古典的もの作り観に毒されているからか。成分分析の結果から作り直したCMで売れ行きが伸びたというのは論理の勝利で喜ばしいことなのだが。そうだよ、「おふくろの味」や「愛妻の手料理」は(客観的にはどうであれ、なんて書くとまたトゲがあると言われるかもしれないが)美味なんだよ。
書ききれないほど興味深い話のオンパレードであった。いくつか箇条書きすると
- おいしさとは五感のコミュニケーションで決まる (これだけは覚えて、と言われた)
- 苦味はもっとも人間らしい味覚(かもしれない)
- ストローの径で味は変わる
- リンゴの歯ごたえ感は化学成分(酸味)の影響を受ける
- 食感性製品の開発は一点突破(これに全面展開と続けたら某派のスローガンそのまま、と講師)
なお、10年前に出された食品感性工学の本(A書店)は「内容が古いので買わないように」とのこと。正直な方だ。
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コメント
スタッフおよび参加者のツイートがまとめられている。
http://togetter.com/li/39283
参加者は約40名だったとのこと。
投稿: 細川啓 | 2010/08/02 11:28
こんばんは。
はじめまして。ヒメです。
先日の相良先生のサイエンスカフェの情報を検索していて、たどり着きました。
私も参加していたのですが、とっても興味深かったです。
科学がもっと盛り上がるように頑張りたいものですね。
生化学若い研究者の会、初めて知りました!!
投稿: ヒメ | 2010/08/02 23:43