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2010/05/16

「くすりと健康2010」を聴いて

講演者本人のツイートで日本薬学会関東支部の市民講演会「くすりと健康2010春季講演会」があるのを知った。「当日直接会場へお越し下さい (申込不要)」に惹かれて聴きに行くことに(先日の星新一展の記念座談会は開催を知った時には申し込み受付日を過ぎていて悔しい思いをした)。

久々の渋谷。会場の日本薬学会長井記念館に入ろうとすると、玄関前に立っていた2人から、講演会は地階と案内された。うーん、いかにも講演会を聴きに来た風に見えたか。玄関の反対側の階段を下りると、あろう事か喫煙場所。息を止めて通り過ぎ、中に入ると、不思議なことにそこが地下二階。受付では今後の案内を希望する場合は記帳をということなので資料だけもらって入場する。

早めに着いたのでまだ人は少ない。前方の席に座り、資料に目を通す。メインはあらかじめ印刷してきたPDFと同じなので、ざっと目を通してから持参した『未来への周遊券』を読み始める。


定刻に開始。資料で名前を誤記された荻原委員長の挨拶に続いて、医薬品食品衛生研究所の花尻室長による「身近に迫る薬物乱用」が始まる。法律を中心とした乱用薬物の概説に続き、その実態、最後に毛髪分析法が話された。

毛髪分析法は血液や尿の検査と異なり過去数か月の薬物利用歴がわかる。血糖値におけるヘモグロビンA1cみたいなもの(ちがうか)。頭髪以外でも分析できるので、摘発前に丸刈りにしても無駄だとか。最後の分析例は物悲しい。覚せい剤中毒の産婦で、出産の一か月前になって薬をやめたけれど手遅れ、新生児の毛髪からもしっかりと覚せい剤が検出された(胎内暴露)。その直接の影響かは不明だが子は健康とは言い難い状態らしい。

残念だったのは、「なぜそれらの薬物の使用や所持が法律で制限されるのか」の説明が乏しく感じられたこと。モルヒネ類と覚せい剤と幻覚剤では話が違う。医薬品と非医薬品でも話は違う。その辺を区別しないで一律にダメというから、講演でも指摘されたように緩和ケアのような適正な麻薬使用までもが世界的に見て少ないと言う日本の状況を生んでいるのではないだろうか。

個人的には違法薬物の害は3種類
1)依存性
2)闇社会の資金源
3)急性・慢性の毒性

麻薬と言うとまず思いつくのが依存性だろう。同じ量では効かなくなる耐性とあいまって、薬漬けという恐怖のイメージがある。ところが逆に「1回だけなら大丈夫」という安易な発想には歯止めにならないし、実際問題すべての薬物が激しい禁断症状を示す訳でもない(らしい)。

依存が生じれば売り手市場になる。「インストールベースビジネスモデル」には独占禁止法の睨みがあるし、適正な価格帯というものがあるけれど、乱用薬漬けの場合は上限がなく「身体で払う」に至ることもある。そしてニコチンならば代金は国庫に入るけれど、それ以外の多くは地下経済に流れてしまう。消費税はもちろん、所得税さえかからない。地下経済と言っても焼け跡闇市程度ならいいが、闇社会つまり暴力団とか犯罪組織が絡んで来ると厄介だ。覚せい剤代金の何割かは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に流れていることだろう。犯罪組織の資金になると知ってか知らずか、金を渡してしまう無思慮の罪深いことよ。(無思慮は時に命に関わる。麻薬などに対して厳しい国で捕まってから「そんなはずでは」と慌てる死刑囚が後を絶たない。)

しかしそれでも薬物乱用は止まらない。「自家製なら問題ないっしょ?」というわけだ。最近は大麻栽培のニュースが多いが、化学系の学生だと合成もお手の物。その筋では有名な話だろうが、自家合成の麻薬を使ったところ副生物の毒性でパーキンソン病になった学生がいる。純正品でも油断はできない。覚せい剤は使用を続けると神経が変性し、幻覚などの症状が現れる。実験動物に精神病(のような症状)を起こすのに使われるほど。

以上とは別に「幻覚に耽る」「多幸感に浸る」という行為そのものを、宗教倫理や勤労精神から問題にする立場もある。賭博と同じ扱いだ(賭博依存症の脳内で起きている現象は麻薬中毒と似ているらしいが)。この場合は「安全な」麻薬も非合法になる。非合法にされれば闇社会の資金源になりやすいのは禁酒法が示す通り。(タバコを非合法化して、そちらにシフトさせるのが覚せい剤対策の決め手になったりして)

2番目の講演は熊本大学医学部の粂准教授による「体内時計と病気の深い関係。この日は土曜日の市民講演会ということで比較的若い人から高齢者まで年齢層が幅広かった(平日午前の市民講演会だと高齢者ばかりだとか)。そのため年齢差の大きい睡眠の話(青少年は早寝早起きが望ましいが、年寄りは宵っ張りの朝寝坊でも問題は少ない)は難しい、と。

まず睡眠とは何かというお話。睡眠不足の悪影響。学習後に睡眠を取れば、復習しなくても4日目に効果最大となるという話など。

手を上げて質問しにくければツイッターでツイートしてくれれば、と事前にツイートされていたが、会場は地階のため電波が入りにくく、リアルタイムチェックはできなかった由(講演中のツイッターチェックはよろしくないんじゃありません?)。

帰ってからお言葉に甘えてメモしておいた質問を連続ツイートしたけれど、落ち着いて考えると「ググれカス」レベルのものもあるな。

ツイートしなかった分も含め疑問は以下の通り。
学習のリプレイについて
 自転車に乗るとかバッティングのような、あまり考えないでする行動にも当てはまるか(はじめは計算問題のようなトレーニングを想定しながら聴いていたのでピアノ(?)を例に出されてアレッと思い、続けてマウスの例を示されて混乱)。

体内時計(生物時計)について
 進化上、体内時計が出現するのはどの辺りか? 脳がない生物にもあるのか? 神経のない生物にも? 大腸菌の増殖に日周期がある? 植物を24時間照明し続けたら絶え間なく成長するか。

 地中にいるセミの幼虫は外界刺激と無関係な体内時計で羽化すべき時を知ることができるのか(そもそも時計の動き始め=孵化がまちまちで地上の時刻と同期していないのでは?)。

 体内時計の光補正は、時期によって「進める」「遅らせる」と逆に働くと言うが、その切り替えはいつ?(後から考えると体内時計の0時を境とすれば辻褄は合う? もっとも機械時計と違って0時はそんなに明瞭ではないだろうが)

 そもそも体内時計の「進んだ」「遅れた」はどうやって測定するの?


終わりの睡眠薬の話のところで、今の睡眠薬は過剰に飲んでも死にません、長く眠るだけ、と言われたのが印象的。そうすると睡眠薬を要指示医薬品(2006年の薬事法改正で処方せん医薬品)にしていた根拠はどうなるのか...

あとは「快眠を得たければ脳を使え(身体の動作も脳の疲労を引き起こすので有効)」「夜眠れなくとも、昼間の調子が良いなら不眠症ではない(不眠症の国際的な定義の変更)」がためになった。朝のツイッターを見て、思い立って出かけて良かった。

余談だが演者の粂准教授は粂教授のお連れ合いで、その粂教授が学生時代に生化若手の会夏の学校で開いたセッションに参加したことがある。共同世話人は松本さんと儀我さん。その儀我さんも昨年物故されて時の移ろいを感じるこのごろ。粂さんには亡くなったお二人の分も活躍していただきたい。(って、余計なお世話か)



追記


ありがたくも質問への回答をブログでいただいた。

  • 睡眠中に強化される記憶の種類は、いわゆる手続き的記憶、非手続き的記憶の両方

  • 光による体内時計の前進相と後退相が変わるのは日中と深夜

  • ヒトの体内時計は、全く光などの影響のない状態では約24時間周期

  • 生物時計は古細菌であるシアノバクテリアから植物・動物全体に認められる(大腸菌にはない)

  • 幼虫のセミは、地中でも温度や光などで外界のリズムに同調していると考えられている

うーん、ヒトの体内時計25時間説は「自分で勝手に光をつけてもよい生活をさせ」た場合とは。知識の更新は必要だなぁ。

なお、講演資料が公開された。

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コメント

昨日は拙い話に来て頂き、どうもありがとうございました。ご挨拶したかったのですが、久しぶりの知り合い(親戚など)がいろいろ来ていて失礼しました。横でかみさんがよろしくと、つぶやいています。松本さんは結婚式に出てもらった数ヵ月後のことでしたし、昨年の儀我(浜)さんもショックでしたね。また何かの機会に。

投稿: 粂 和彦 | 2010/05/16 23:00

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