チェーンメールとRT
しばらくTwitterをやっていて気になる現象がある。RT(リツイート)だ。
Twitterのヘルプではリツイートは以下のように説明されている。
「リツイート」は、あるユーザーが投稿した好きな情報を再投稿し、みんなに広めたいときに使います。 投稿の「リツイート」ボタンをクリックすることでその投稿が、自分をフォローしているユーザーのタイムライン(画面)に表示されます。
※この「リツイート」では、自分のコメントを追加することはできません。
Hootsuiteなどのウェブクライアントを使うとリツイートする際にコメントを付加できる。たとえば「この意見に賛成」あるいは「バカ発見」と。しかし素のブラウザで実行すると元のツイート(原義は「さえずり」、日本では「つぶやき」と訳された140字の投稿)の冒頭に「RT」と付加されたものだけが再投稿される。
メールで言えば転送である(佐々木俊尚『電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)』の冒頭に引用されている通り、昔はe-mail(電子メール)と区別していたが今ではmailといえば電子メールを意味する)。そして転送メールの徒花がチェーンメール。
チェーンメールと言っても「なにそれ? 食べられるの?」という人も増えたようなので、まずここから解説。
中年以上には「不幸の手紙」のメール版といえばお分かりになろう。「この手紙を受け取ったら、×人に同じ文面で送ること」というアレである。人数は5人とか10人とか(郵便料金の値上げに伴って変化したことだろう)。送らなかったら不幸になるぞ、という脅し付きだったので「不幸の手紙」。
これが電子メールの時代になると、転送には手間も金もかからなくなったので「できるだけ多くの人に転送してください」となった。また「新種のコンピュータウイルスが流行しています」「コンピュータウイルスへの対策はこうです」「手術用の血液が不足しています。助けてください」など、転送するのは良いことだ、人のためになると誤認させる内容になってきた(もちろんほとんどの内容はデタラメで、嘘の「ウイルス除去操作」を実行してPCが動かなくなった例も)。
Wikipedia日本語版の解説(2010年4月3日 13:46 (UTC))では、多数の人への転送を促せばチェーンメールだとしているが、それだけではチェーンメールにはならないと考えている。
1.情報の発信源(責任者)が明確で裏付けがとれるか
チェーンメールの大きな特徴は、情報の出所(=責任の所在)が不明確なこと。典型的なのは「友達がその友達から聞いた」。「新種のコンピュータウイルス」では、IBMなどの名前が出されたが、IBMのウェブサイトで確認することはできない。逆にいえば、そのメール以外でも確認がとれる情報ならチェーンメールではない(「被災地で紙おむつが不足しています」はチェーンメールになるが「赤十字のサイトで被災地で必要な物資を確認しましょう」を転送してもチェーンメールではない)。
2.情報の有効期限は明白か
「××病院で○型の血液が不足」のような話が典型で、発信日も手術予定日も不明確。そのため数年前のメールが漂っているようだ。年月日が明記してあれば古い情報か新しい情報か判断できる(悪意のある人間が操作しない限り)。本当に血液が必要な場合なら、「*年*月*日(曜日)までに」と明記することで野放図な拡散を防止できる。(脱線するけれど、ビジネスの世界ですら、この年月日の明記が疎かなのは呆れるばかり。たとえばウェブページに最終更新日が明記されていないのは珍しくない。)
つまり「いつ、誰が言い出したか明確でない話(したがって責任の所在も不明)を、どんどん広めてね」の3つがチェーンメールの条件。
残念なことに、発端は善意のメールなのに、無責任な転送でチェーンメール化することがある。転送をする人はその結果についての責任を負う覚悟をしてほしい。「善意だから」「有用だと思ったから」は言い訳にならない。
チェーンメールはなぜいけないか
「チェーンメールがどういうものか分かったけれど、それの何がいけないの?」「嘘の情報を流すのは悪いけれど、良い話を転送するのは構わないんじゃない?」という人もいるだろう。
理由は3つ。
まず、デマ(流言飛語)に対する抵抗力が落ちる。嘘ばっかり聞かされていると、騙されにくくなるという見方もできるが、周りの人がみんな言い出したことに「それはおかしい」というのは、実は非常に難しい。だからデマを流布させてはいけない。そのためには「ちょっと良い話」であろうが「バトン」であろうが、転送する前によく考える習慣が必要。相手を選んで、不必要な拡散を防ぐ手段を講じていれば、転送上等だ。正確な情報を、必要な期間、適切な範囲に流すならばチェーンメールと非難されることはない。
次に、ネットワークに負荷をかけ、サーバーを圧迫し、検索の精度を下げる。「できるだけ沢山の知り合いに転送」するのはネズミ算なのだ(ネズミ算を知らない人は、マルチ商法なんかに引っかかって借金を作り友達をなくし親類から義絶される前に自力でお勉強しましょう)。
三番目。そういうチェーンメールを転送すれば、あなたに対するまともな人たちの評価は低下します。受け取った人が「これで20通目(うんざり)」「この話はもう解決済み(ウンザリ)」「私にどうしろと?」と嫌がって、つまりスパム(spam;迷惑メール)扱いしていなくても、あなたは立派なスパマーです。その他にもいろいろとありがたくない称号を奉られることでしょう。いわく「情報通気取り」「はしゃいでいる初心者」「無免許運転」「ジョージャク」...
リツイートとチェーンメール
で、ようやくリツイートに戻る。
リツイート好きのフォロー相手が、集中的なリツイートをしたとき
複数のフォロー相手が、同じツイートをリツイートしたとき
ハッシュタグ付きのツイートがそのままリツイートされたとき
鬱陶しいなぁと感じた。まるでチェーンメール。中には教えてもらってありがたいツイートもあるし、賛同表明が心強いリツイートもある。また140字の応酬で話がそれ気味になった時に、第三者が元のツイートをリツイートすれば軌道修正に役に立つ。そういうメリットもあるのだが...
あるハッシュタグ(フォローの有無に関係なくツイートを閲覧するための検索目印)を追っていて、同じツイートが繰り返し、かつ集中的にリツイートされているのに遭遇すると、本当に読みにくい。なんのためのハッシュタグなのか。これにはテーマ別のメーリングリストにチェーンメールをマルチポストされたような憤りを感じる。しかも(仕様上やむを得ないとはいえ)「同意上げ」なのか「晒し上げ」なのかはっきりしないし、中には野次的なリツイートもあるようだ。ちなみにそこでは私のツイートも51人にリツイートされているけれど、正直そんなメルクマールになるような内容ではない(参考にはなる)。リツイートの際にハッシュタグは自動的に削除されるか、無効化(タグの告知には使えるが検索はされない)してくれればと願う次第。手動であれば、#の前の1バイトスペースを削除すれば拾われなくなる。
もちろんハッシュタグがついていなかったものにタグをつけてリツイートするのは、内容がふさわしければ好ましい行為。
ネットの噂とリツイート
さらに今日(2010/4/19)、Twitter内のストーカーに注意を促すリツイートを受け取った。女性と見るとP2Pのチャットに誘い、断ると誹謗中傷のツイートを垂れ流す云々。調べてみると、オリジナルは約12時間前で、すでに100人以上がリツイートしている。しかもリツイートのリツイートもある。連鎖反応(chain reaction)を起こしているのだ。
ツイッターの場合、フォローしていなくても、ユーザー名が分かればその人のツイートは誰でも確認できる。発信者は「当該アカウントを知りたい方は、俺がフォローしているリストをご覧ください。」というが、1005人(14:51現在)もいる。(仮にそのアカウントを確認できたとして、自作自演でないという保証もない)
ここで問題を切り分ける。
「事実を確認できない噂、あるいは悪意のある個人攻撃」の場合と「被害は事実」の場合。前者の場合は簡単だ。広めてはいけない都市伝説と切り捨てることができる。リツイート禁止。では、後者なら?
「本当だったらリツイートしても良い、いやリツイートすべき」と考える人もいるだろう。でもね、そのリツイートでどんな効果を期待しています? ストーカーに気をつけましょう? 具体的に、どうやって気をつけるのか。分かっているなら、それをツイートすべきではないか。たとえば「フォローは慎重に」とか「0.1%に紛れ込ませて無視する」とか。
ネットで自分の名前を検索したことのある人の多くは、思わぬところで名前が挙がっているのに驚く経験をお持ちだろう。中には不本意な誹謗中傷を受けていることも。だが虚実を問わず事実を挙げられている場合は別として、いちいち評判に食って掛かる必要はない。そんなことをすれば「痛い人」としてさらに祭られる危険すらある。また「おかしい人」から「おかしい」と罵られたら、それは「おかしくはない」という勲章みたいなもの。気にしないで放置すればよろしい(信用調査をされていて変な評判があると困るなど気になる事情がある人は、たとえばgoogle アラートで自分の名前を提起定期検索すると良い)。
つまり「ストーカーみたいなのがいます」という注意は流してもほとんど意味がない。悪口を垂れ流す以上の悪さはできないし、それを止める手段がない(悪口の程度によっては名誉毀損などで訴えることも理論上は可能だが)。そんなものは無視しても大丈夫。レアケースを心配しだせばきりがない。
ただ、昔は「ネットで態度のでかい奴も、会ってみるとおとなしい」と言われていたが(ネット弁慶)、西鉄バスジャック事件や秋葉原無差別殺傷事件のような例もあるので、リアルでの遭遇には気をつけたい。もっともTwitter上で「隙」を感じさせるようであれば、身近な野獣に狙われていることだろう。敵は本能寺にあり。
ちなみにリツイートは重ねるたびに中継者情報が付加されるので、140字を越えた分から末尾が削られて情報の欠落が起きる。自分の名前が付加されて肝心の部分が欠落するのも気付かずにリツイートする人も多いだろうな。ほんと無駄。
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