企業で自炊は許されるか
自炊と言っても、自分で食事を作ることではない。
池田信夫blog(のコメント)を読んでいて(遅まきながら?)知ったのだが、書籍や雑誌をばらしてスキャニングし、電子ブックを自作することが自炊と称されているらしい。念のためググってみるとwikipediaで取り上げられているだけでなく、まとめサイトすらできていた。由来は2ちゃんねるらしい。
個人で可能になったのはパソコンやスキャナ、ストレージなどの高性能化低価格化の結果であろう。以前、30万画素のデジカメで撮影し、VGA画面で再生してがっかりしたことがある。A4判の雑誌1ページを1画面に収めることができなかったから(収めると字がつぶれる)。そのくせ当時のHDDにとっては侮れないファイルサイズ。
法律的な面で考えると、これは私的使用のための複製に該当するから、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する」限りにおいては合法的だ。
また公共図書館(「公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの」)であれば、非営利の事業として蔵書の電子化を行える(昔からマイクロフィルム化は進められていた)。
問題は企業。ソフトウェアならばバックアップが認められているから、購入物など正当な所有物であればオリジナルを保管することを前提にコピーは可能だ。しかし書籍や雑誌にはバックアップコピーを可とする条文は存在しない。企業内の資料室(図書室)は政令に定める図書館等には該当しないことがほとんどだろう。ましてや総務課の棚においておや。たとえ購入した書籍であっても、それを自炊、つまり自分で電子化することは複製権の侵害、早い話が犯罪になるといわざるを得ない。
書籍だとまだ完全電子化にためらいを覚える人は多いだろう。だが、雑誌や新聞の切り抜きは? オリジナルの切り貼りならば著作権法上なんの問題もない。しかし台紙に貼り付ければ、単純にいって厚さは2倍。ファイリングの基本である「1ファイル1記事」を守れば、たちまち膨大な量になってしまう。しかも検索性は低いから死蔵必至。
余談になるが、時間が経って糊が変色したり劣化したりしたスクラップ(残骸)をみて愕然とした経験を持つ人は結構いると思う。どうもオーソドックスなデンプン糊が一番安定らしい...少なくともゴム糊は激しく劣化した。
気のきいた企業ならば乾式複写(今どき湿式複写なんて役所でも使わないんじゃないだろうか?)、さらには電子化を考えるだろう。場所を取らないから保険を兼ねた社内失業対策としても役に立つ。多くの企業で自炊はされているだろう。
ここでタイトルから離れる。
こういう場合、一番愚かしいのは、実態に目をつむり、空疎な建前論に終始する、つまり自炊の合法化に反対する態度。法的に問題があると分かっていても電子書籍の便利さには抗しきれない。ましてほとんどの人はそれが違法かもしれないなどとは考えもしないのだ(多少マシな人でも所有権と著作権を混同している)。ということは、合法化して商売にすれば手に入る売り上げをみすみす逃すことになる。自炊は結構めんどうな作業なので、適正な料金で代行(つまり自炊ではなくてケータリング)してもらえるなら、喜んでサービスを購入する人は多いだろう。FMエアチェックの興亡がそれを証明する。いまならiTunes(Store)ね。
新聞社は、現物を翌日には廃棄しているうしろめたさ?があるのだろう、記事データベースを有料で公開している。版によっては収録されない記事が出るなど問題はあるが、有料ネットサービスの中では数少ない成功例といえる。週刊誌だって翌週には入手困難になるのだから週遅れで電子化して公開してくれればと思う。無償であればありがたい(電子版なら広告は差し替え可能な上に、売り方によっては把握できる読者属性に合わせた最適化さえもできるのだから購読料だけに頼ることはない)が妥当な金額ならばしぶしぶでも払おう。もしかして泡沫のように消え去ることを前提に作っている訳でもあるまい。
書籍だって、置き場所を考慮した買い控えを考えれば、電子書籍の提供や所有書籍の電子化サービスになぜ取り組まないのか謎だ。電子書籍版への名入れサービス(という名の流出牽制)とか現物の回収あるいは透明インク(スキャナは反応)によるスタンプとか、前向きに考えればいくらでも不正コピー抑制策は出て来る。
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