「路上脱出ガイド」発行を見守って(1)
先月20日に発行された「路上脱出ガイド(東京23区編)」の編集会議があると聞いて3月初めに提出したメモ。この前の部分には「どの程度まで話が固まっているか分かりませんが」と言い訳がしてある。
路上脱出ガイド(東京編)に向けてのメモ
想定読者は誰か?
想定読者の違いは編集方針に大きな影響を与えます。
- すでに住居をなくして路上で生活している人(路上生活者)
- 崖っぷちではあるが、路上には出ていない人(一歩手前)
どちらが重要か?
路上に出てしまってからでは困難さが桁違いですから、「一歩手前」の人に焦点を合わせることが大切だと考えます。
- 労働者の権利(期間中の派遣契約取り消しの違法性など)
- 借家人の権利(違法な追い立てへの対抗手段)
- 借金の基礎知識
- 使える制度・施設
- 民間を含めた相談窓口一覧
「一歩手前」の人たちはおそらく「自分はホームレスじゃない」というプライドがあるでしょう。また持っていることで仲間から「おお、とうとうホームレスか」とからかわれると思えば、関心があっても手を出さないでしょう。タイトルなどに工夫が必要。むろん、「格好つけてる場合じゃないだろう!」とドギツく出るのも選択肢としてはありですが。
路上脱出ガイドの場合
すでに路上に出ている人の方が深刻度が大きいので、そちらに焦点を当てた「路上脱出ガイド」にするというのであれば、徹底的にテクニカルなサバイバルガイドにすることを提案します。第一章はとにかく死なないための方法。なんらかの理由で公的な支援を受けられない場合の自助努力(野宿の仕方など)についても解説する。また建前に終始せず、本音の情報(「○○は役に立たないから使わない方が良い」など)を提供することで価値を出せます。行政を敵に回さないよう表現には注意しつつ。
- 住む家をなくしたときの基礎知識
- 無事に朝を迎えるために
- 荷物はこうして選べ
- 路上生活の不文律
- 援助の受け方
- 相談窓口一覧
- 生活扶助のための公的支援制度
- 利用できる公的機関
- 民間援助団体とその活動
- 路上生活の法律知識
- 路上生活者の権利
- 犯罪となる行為
- 路上からの脱出ロードマップ
販売者の意見も大きく取り入れ、場合によっては原稿料を払って執筆してもらい、「ホームレス生活評論家」としてデビューさせることも視野に。
大阪編への感想
- すでに路上に出ている人用のガイドに見える。
- でも、どうやって渡すのだろうか?
- 炊き出し情報は、日時場所だけでなく「並び方」などのルールもあった方が利用しやすいし、新参者の無思慮な行動で中止に追い込まれる危険も減らせる。
- ふりがなを付けたのは教育から疎外された人への配慮として好ましい。
- しかし、それならもう少し易しい言葉遣いにできなかっただろうか(ルビ付きの難しい言葉より、ルビなしの平易な文章の方が読みやすい)。
例:救急搬送された場合、所持金がなければ無料で(行旅病人として)診察を受け
→救急車で運ばれれば、お金を持っていなくても病院でみてもらえます。 - 目的が「活用できるサービスをお知らせする」だからやむを得ないが、非常に他力本願(世俗的な意味で)な感じがする。
- ビッグイシューの紹介では、所得保証もないことを明記した方が良いと思う(東京編では非常に重要)。
解説
いま読み返してみると、2000年頃から整備されてきたという路上生活者への公的扶助(シェルターなど)をほぼ無視している。無知だけでなく「お役所のすることなんて...」という偏見のせいもあるだろうか。ただ当事者の間に「○○は役に立たないから使わない方が良い」といった噂があることを無視したら、ひいては「ガイド」の信頼性にも影響してきてしまうだろう。
それはともかく、暖冬だったとはいえ、2月は寒さ真っ最中。家を失い、ノウハウもないまま野宿をすれば凍死する危険もあった。そこで「無事に朝を迎えるために」は是非とも入れたい一章だった。
また新参路上生活者の無作法が原因かは分からないが、12年間続いた炊き出しが近隣からの苦情で中止に追い込まれる事態も発生しており、路上生活のルール周知は重要に思えた。
またビッグイシュー販売に所得保証がないことを明記することが「東京編では非常に重要」としたのは、大阪の販売者は個人事業主意識が高いのに、東京の販売者にはサラリーマン意識が抜けない人が多いと聞いていたから。かつて買い取り制で最低保証がない点だけを突いて非難したブロガーがいたが(唾を吐きかけるのももったいない)、誤解は解く努力をしない方も悪い。経験的にいって、まじめにやれば1日に「20-25冊」は売れるのはほぼ確かとはいえ、努力しないでも売れる訳ではないし、「ノルマがない」を曲解するといつまで経っても売り上げは伸びない(自分でノルマを課すようになって一人前)。保身のexcuseはしたくないという誠意の表れだと思うけれど、不利な条件もきちんと言わなければ。
大阪編が他力本願に思える、というのは、制作者が行政サービスに依拠しているという意味ではなく、ガイドを手にした読者には努力を要求していない、という意味。(2009/05/03 追記)
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