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2009/03/02

ビッグイシュー日本版のメール販売

雑誌「ビッグイシュー日本版」は、これまでは路上の販売者からしか買えなかったが、2009年の2月から、電子メールで注文すると宅配されるというシステムが動き出した。

端的にまとめると


  1. 販売者を指名して、注文メールを送る
  2. 入金額が連絡されるので指定口座に振り込む
  3. 発送報告メールが届く
  4. 雑誌が指定場所に届く

実際には、販売者のところに送付先情報が集積しないように、少々複雑な仕組みになっているが、要するに「販売者の××さんからこの号を買いたい」とメールを送って料金を振り込むと宅配便で届けられるという仕組み。今まで購入の機会が事実上無かった未販売地域居住の人も購入できるようになる。

ここに開始に当たってメール販売の案内用に勝手に書いて提出したけれど採用されなかった原稿がある。

ビッグイシュー基金では、ホームレス状態にある方の就業応援のため様々なプロジェクトを推進しています。 今回、日本電気株式会社(NEC)様の協力により、ICTの中心と言える電子メール利用を生活の中で身につけるため、メールでお客様からの注文を受けて雑誌を発送する「メール販売」に取り組みました。4か月間にわたる研修を受けた精鋭6人の販売者が2009年2月から開始します。

「メール販売」は、指名注文を受けた販売者が宅配便で雑誌をお送りするもので、銀行振込された代金のうち160円が販売者に渡ります(300円の号1冊あたり)。日常的にメールをチェックする習慣が身に付き、発送報告という能動的なメール利用ができるようになるだけでなく、従来しばしば指摘を受けてきた販売者とお客様との「すれ違い」解消の一助となることを期待しています。

PCはおろか住む家さえ持たない販売者にどうやってインターネットへのアクセスを保障するか、顧客個人情報はどう扱うか、代金の受け渡しをどうするか...多くの課題を前に手探りで始めたテストケースです。そのため鳴り物入りでの発表は控えました。しかし今回の取り組みが成功すれば、さらに多くのメール販売者が生まれ、さらには販売地域外の方にも雑誌をお届けする途が拓けます。

IT研修修了生の中には、PCは初めてというチャレンジャーもいました。拒否反応を示しても不思議でなかった販売者にとって、メールで注文が届くことはとても励みになります。そして路上での販売と同じように、どうすればより多くの注文をいただけるようになるかなど、それぞれに工夫を重ね始めることでしょう。皆さまの温かいご支援をお願いいたします。

メール販売では、円滑な運営と個人情報を含むプライバシー保護のため、お客様と販売者との直接のやり取りはしません。先に送付先を登録していただいてIDナンバーを発行し、注文はIDナンバーを介して処理します。(後略)


なぜこれが採用されなかったのか。詳しいことは私には分からない。しかし研修が終わり、販売を始めた以上は、それを成功させることが至上命令。成功とは売り上げが伸びて路上生活から脱出すること、それを見た他の販売者たちが「自分もメール販売をやりたい」と言い出して電子メールの使い方を身につけようとすること。

本家は大人の事情があるらしくほとんど宣伝をしていない(まぁ、NPOが営利企業の出す雑誌の販売を大々的に宣伝するのは憚られるのかもしれないが、それにしても注文専用アドレスまで削除してしまうとは...)ので、まずは存在を知ってもらい、使ってもらうことを目的に、ここで勝手に解説する。

購入者にとってのメリット



  • いつでも、どこからでも確実に買える
  • 振込・宅配なのでまとめ買いできる
  • 販売者に対して匿名で購入できる
  • 販売者にエールを送れる
  • プレゼントに使える (←想定していない使い方だと渋られた)

ビッグイシュー販売の最大の欠陥は、販売者と出会えなければ購入できないこと。普通の出版物であれば版元に注文すれば手に入る。ところがビッグイシューの場合は通販に「バックナンバー5冊以上」という制限があり、さらに最新号は路上の販売者からでないと入手できない。津津浦浦に販売者を立たせているなら「路上の販売者から買って」というのも分かる。しかし現在12都道府県でしか売っていないのだ。おまけに販売場所に行ったからといって必ず購入できる訳ではない。その弊害はさんざん進言してきたつもりだが、馬の耳に小便(?)。あまり言いたくはないので小さい字で書くがとても商売をする気があるとは思えない。読者より販売者を優先するのは商業誌として邪道。それが解消される。

ビッグイシューを最近知った人ならばバックナンバーもまとめて買いたいと思うかもしれない。しかし路上販売では在庫が無い場合もあるし、10冊20冊を持ち帰るとなると体積や重量も侮れない。生活圏で販売者と会える場合でさえこうである。出張などで「たまたま」販売者に出会えても、後ろ髪を引かれる思いで1冊だけというケースは多いと思う。多少時間がかかるとはいえ、家まで届けてもらえるなら気楽に注文できる。

また意外と多いのが「敷居が高くて買えない」という声。すでに購入している人は忘れてしまったかもしれないが、思い出してほしい。自分が最初にビッグイシューを買ったときのことを。私は購入する前に3度は横目で見ながら通り過ぎた。2ちゃんねるにはこんな弱気の書き込みがある(下線は引用者による)。


248 :匿名希望さん:04/03/17 13:09
高田馬場のロータリーで見かけた。
一生懸命そうだった。
けど、近づきがたかった。

319 :匿名希望さん:04/08/31 08:20
かなり前の、話ですが、銀座のど真ん中で、売っているのを見ました!ですが、近寄りがたかったので、買いませんでした。

344 :匿名希望さん:05/01/02 01:22:51
最新号中野で買いました。ブルーナさん好きだし興味あったので思い切って購入!

407 :匿名希望さん:2007/01/25(木) 16:57:35
読んでみたいが買いづらい

408 :匿名希望さん:2007/01/31(水) 19:09:32
200円出して「ください」って言えば良いんだよ。

410 :匿名希望さん:2007/02/18(日) 20:02:11
目黒駅で売ってるおじさんが頑張ってるので買いたいが、
勇気がない・・・。

あの頑張ってる姿を見ると涙がでそうになる(´Д⊂

411 :匿名希望さん:2007/02/18(日) 23:50:36
なんで勇気がいるの?
前の人が言っているみたいに
ください というだけなのに

478 :匿名希望さん:2009/01/03(土) 20:03:55
ホームレスの人にこえかける勇気がなくて買うことができません・・
英語版は売ってないんですか?青学とかに売れば?

479 :匿名希望さん:2009/01/03(土) 21:00:34
>>478
なんてことないよ
気さくにありがとうございます!って応答してくれるよ
ちゃんとしてる人じゃないと販売できないから
安心して買ってあげてください

480 :匿名希望さん:2009/01/05(月) 23:05:17
買って「あげる」ではなく
「買う」んだよ
それだけの値打ちはあるよ
東洋経済とまではいかなくても
下手な週刊誌よりはずっといい


メール販売であれば、顔を合わすことなく購入できる。イニシエーションをしてまで読みたい人ばかりではないのだ。ちなみに販売者は送り先を知らないシステム。なお、建前上は販売者からメール販売の案内付き名刺をもらってから始まることになっているが、別に見ず知らずの販売者からでも購入できる(指名は必須)。

注文時に販売者へのメッセージを付けることができる。販売者にその気があれば、発送報告と一緒に返事がもらえる。

購入者にとってのデメリット



  • 直接買うのに比べると高い(送料・振込手数料)
  • 事前に氏名・送付先を登録する必要がある(但し、その情報に販売者はアクセスできない)
  • 注文してから届くまで時間がかかる
  • 販売者の顔を見たり話したりできない

販売者から対面で買うことが可能な人はそうすれば良い。別にメール販売に全面移行して路上は止めます、という話ではない。今の販売方法では「なかなか」あるいは「絶望的に」買うのが難しい人のためのシステムなのだから。

もちろん改良の余地はある。使ってみての感想を積極的にビッグイシュー基金なりビッグイシュー日本へとフィードバックしていただきたい。IT研修という視点からの提案は基金へ、購読システムという視点からの提案は会社へ。

販売者にとってのメリット



  • 機会損失がなくなる
  • 販売エリアが日本全域になる
  • 客が時間分散するので、対面販売よりも応対できる客数上限が増える
  • 仕入れ費用が必要ないのでキャッシュフロー改善(路上で100冊も注文されたらキャッシュで14,000円用意しなければならない)
  • 発送報告をかねて近況を報告することができる

    • 自分の人となりを知ってもらえ、固定客へとつながる可能性も
    • 吃音などの障害があってもカバーされる

  • ブログなどと連動して拡販できる

なお、現状ではダイレクトメールの送付は制限している(法改正でオプトアウトメールは禁止となった)。

私的な構想では、ウェブ上に販売者ページを作り、購入を希望する人は販売者の一覧の中から自己紹介や推薦文を頼りに応援したい人を選んでフォームで注文できるようにする。自分がどんな人間か、どんな希望を持っているかをまとめることは非常に有意義。

販売者にとってのデメリット


...なんかある? メールでの注文が多くなれば路上に立つ時間を減らすだろうし、「今日は寒いから」「暑いから」「風が強いから」「カラスが鳴いたから」と立たない理由も増えるだろう。それは堕落と呼べないこともないが、販売者は苦行僧ではない。特に若い販売者はビッグイシュー販売を一生の仕事にしてもらっては困る訳で、多く稼ぐとともに仕事探しをする時間を作ってもらいたい。応援する方だっていつまでも付き合う気はない。

補足


本稿は初出時から改稿を重ねているので、その事情を説明したい。

メール販売を目的としたIT研修には企画段階から協力してきた。ところが更新されたメール販売の案内を見てもらえば分かるように、考え方に差がある。しかし人生は妥協の連続。外部協力者としての節度を守りながら研修終了まで付き合った。振り返ってみれば大した貢献はしていないが、もし途中で手を引いていたら稼働に結びつけるのは難しかったかもしれない。

約半年間、ビッグイシュー東京事務所に足繁く出入りして学んだことの一つは不撓不屈の精神。こう書くと大げさに響くけれど、つまりは「ダメな理由を列挙して終わりにするのではなく、一つずつ解決する」姿勢。たとえば売り上げの伸びない販売場所周辺でポスティングを行ったことがある。それを聞いた時には実効性に疑問をもったし、なによりも刑事事件に発展する可能性を危惧した。ちょうど「集合ポスト投函 書類送検」という新聞記事(国分寺市議が議会報告をポスティングしたところ住居侵入容疑で送検された件)を読んだばかり。それでご注進のメールは送ったものの、そこで止まってしまうのが従来の私。ところが反応は(実施を前提に)「どうすれば安全に行えるか教えてください」。有名スタッフのあの笑顔で頼まれたら消極的なことは言ってられない。そして前向きに考えれば具体策もすぐに出て来る。住人に出会ったら挨拶をするなど、不審・不快に思われないための端的な行動指針を集まったボランティアに説明できた。その影響か知らないが、中にはビルの管理人に話をつけてから投函した人までいた(管理人はビッグイシューを知っていて好意的だった由)。また、そのポスティングの終盤、雑誌の重さに耐えかねてキャリーカートが壊れてしまった時のこと。天気も怪しくなってきたことだし、これで終わりかと思っていたら(どこまでも消極的な私)、なんと目の前のコンビニに飛び込んで(魔法の笑顔を使って)台車を借り出してきてしまう。この危機打開能力には心底驚き、そして尊敬するようになった。その少し前にはサウジアラビア大使館の諦めない精神に感心したこともあり、人生観がちょっと変わった。『泪の旅人』で滝田修こと竹本信弘が「50と50に分けて1つ勝つことを目指すべき」と諌められた経験を書いていたこともジワッと効いて来る。いろいろ不満はあろうとも、販売者がICTスキルを習得し、メール販売を始め、(売り上げを伸ばして)路上から脱出するという共通目標の達成を最優先しよう。

そして念願かなって2月にメール販売はスタートした。開始と同時に私は実証テストを開始する。またビッグイシューに関心を持つ人と会うたびにメール販売の話をした。反応は...思わしくない。このままでは物珍しさが終わったところで注文が途切れてしまう。注文の来ない日が続けばメールのチェックは間遠になる。ビッグイシューにかなりコミットしている人間でさえ、その仕組みを理解しておらず活用もしていないと知ったとき、「公式サイトの説明では不十分だ」という結論に達した。幸いにも開始時に勝手に用意した解説稿がある。そこで3月2日に第一稿を公開して独自の周知に乗り出した次第。

ラガードだ、ラッダイトだ、○○○○○○だと言った悪口のための悪口は慎重に取り除いたつもりだった。ところが修行だけでなく思慮も足りない悲しさで、瘴気漂う文章になっていた。そのことは数日おいて読み返すことで自分でも分かった。<strike>やstyle="color#ffffff"を使わないだけ大人になった、というのは自己満足に過ぎない。

そこで修正に着手した。しかし慧眼の士であれば、私とビッグイシュー基金との間の不協和音を容易に聞きつけたであろう。ここで大幅な削除などをすれば「ボランティアのブログが介入を受けた」などという憶測を呼び起こす危険がある(販売者の権利を守るため、ブロガーへの写真削除申し入れは実際に行われているって、通報したのは私だけど、つまり噂の根になるような事実はあるから特に慎重さが必要)。物陰から石を投げるしか能の無い卑劣漢に餌をやるつもりは無い。食糞するのは勝手だけど。

というわけで、基本的な構成は残しつつ、数回に分けて刺激的な表現を緩和し、内情暴露と誤解を受けそうな箇所には説明を加え、あわせて全般的な補足を行った。本稿の目的がメール販売の仕組みと特徴(長短)の解説であり、その結果としての利用促進であることを理解されたい。

(2009/03/21)

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コメント

私はよくおっちゃん見つけたら雑誌代プラスα(チップ)でお支払いしていたので、たとえ銀行振り込みで寄付可能としても顔が見えないのは味気ないなあという気はします。

投稿: tom | 2009/03/04 19:34

広島で販売の手伝いをしている者です。
イシューのネット販売について、どういう経緯でネット販売を企画しパソコン講座をするに至ったかをご存知でしたら教えていただけませんでしょうか?地方の販売ボランティアは東京大阪で行われている基金の活動からは除外されているものですから情報が入りません。よろしくお願いいたします。

投稿: | 2009/05/20 17:29

先ほど、この辺りをうろついておりましたら、PC講習の成果の実戦の為にネット販売をしている記事を見つけましたが、この販売方法を、イシュー本社じゃなくNPOが仕切っているのは、どうも違うような気がしているのですが、当事者としてどう思われますか?
東京の講習を受けた5人?だけが出来るのも気になります。全国には多くの販売者が居るのですから。

投稿: | 2009/05/20 22:46

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