Webアクセシビリティ・セミナー
webのアクセシビリティとは使いやすさのこと。視覚障害者(全盲)向けの読み上げブラウザ対応から取り上げられたため alt 属性の記述のようなバリアフリー化で認識されてしまったが、視覚障害(弱視)、色覚障害、運動障害さらには知的障害があっても利用可能なユニバーサル化が本来の姿。
その普及を目指すWebアクセシビリティ・セミナーに参加した。平日の18時から21時というのは異例だが、主催NPOメンバーの都合らしい。つまり兼務(昼間の本業が別にある)。
- 基調講演 竹田義行(総務省 情報通信制作局長)
- 特別講演 石田守(NTT-PCコミュニケーションズ社長)
- パネリスト 猪子和幸(NPO法人 イーエルダー理事)
- パネリスト 岩崎未希子(総務省 情報通信利用促進課 企画係長)
- パネリスト 岩下恭士(毎日新聞 ユニバーサロン編集長)
- パネリスト 白井夕子(物産サービス)
- パネリスト 宮地一郎(デンソー)
岩下さんは全盲、白井さんは弱視。
基調講演は「デジタルデバイドのないICT社会の実現に向けて」。総務省は一生懸命Information and Communication Technologyという言葉を定着させようとしている(私が最初に聞いたのは2002年)が、残念ながら日暮れて道遠しの観。
またさりげなく「字幕放送が特別な装置なしで受信できるようになります」とデジタル放送のアピールをしていた。お疲れさま。
それはともかく、総務省としてはインターネット利用者に占める高齢人口の増大にアクセシビリティ向上の必要性を見いだしている。現在バリバリ利用している中堅若手でさえ、歳をとって白内障が進み、震顫が現れたら使えなくなるサイトが続出するだろう。糖尿病等で失明する人も出てくるし。
e-Japanの次はu-Japanだそうである。uとはubiquitous(遍く)、universal(万人の)、user-oriented(ユーザー本位の)、unique(類いなき)の4U(for you)だそうで。
アクセシビリティについては日本工業規格で定めた(JIS X 8341-3)が、実現方法が不明確という課題があったので具体的な手順書を作成したらしい(みんなの公共サイト運用モデルで配布している手順書がそれか)。W3CのWCAGも商品名を挙げてないのでわかりにくいと毎日新聞の岩下編集長が言っていたが、普遍性とわかりやすさ(特殊条件への適合)の両立は難しい課題。
次の特別講演は、マイクの調子が悪いのか、アンプの調整が悪いのか、演者の話し方が悪いのか、空調の音がうるさいのか、ほとんど聞き取れなかった。ネットワーク進化の話をしたらしいのだが...
休憩を挟んで第二部はパネルディスカッション。これの白眉は、ZoomTextを使ったサイトの検証。パネリストの白井さんは弱視のため視力は両眼0.1弱だが、近づいて配色やフォント、コントラストを調整すれば小さい字でも見えるという。ところがユーザ側で変更すると元の組み合わせによっては困ったことになるらしい。セミナー主催のイーエルダーや後援の総務省のサイトは配色やコントラストを変えてアクセスすると読めない箇所があることが露呈した(画像と文字の組み合わせが問題らしいが詳細は不明)。にこやかに事実を示す姿はどんな声高な糾弾よりも力強い。
壇上に並んだ岩崎係長、「サイト作成は広報でして...」というお役所答弁では逃げ切れぬと観念してか、帰って検討します、と白旗。この方、写真で見るよりほっそりしてました。至近距離だったので「まいった」という表情が手にとるように。それはともかく、発言のたびに「総務省の岩崎です」と名乗るので奇異に感じていたが、参加している視覚障害者への配慮だったかもしれない。そうだとすればなんと素晴らしい気遣い(単に録音から議事録を起こす際に便利というテクニカルな習慣かもしれないが)。
と好意的に受け取りたいのだが、ご自慢のみんなの公共サイト運用モデルはいただけない。読み上げブラウザなど支援ツールが正しく機能するためには、サイトが正しいHTMLで作られていることが前提。ところが一目見ただけで「これはひどい」という代物。念のため帰ってからAnother HTML-lint gatewayでチェックすると 99個のエラーがあり、44点。評価こそ「普通です」だが、tableにサマリーを書かない、同一の内容で異なるリンク先を示すといったアクセシビリティの問題以前に、見出し要素を使わない、リスト要素の間違った使い方などイソターネット丸出し。tableで見出しを書くなぁ! 正直ガッカリ。
デンソーの宮地さんは企業サイトの制作側から発言。ウェブ自体をわかりやすく使いやすくすることが結果としてアクセシビリティを向上させるを指摘した(バリアフリーからユニバーサルデザインへ)。それでも企業としては投資効果のはっきりしないことはやりずらいので、行政の率先垂範を期待していた。それに対して、消費者に直接販売する企業は金のない若者相手の商売を止め、リッチなシルバー相手のウェブを作って儲けたらという提案も。
課題は、ユニバーサルデザインに正解がないこと。ある障害者にとって使いやすい工夫が、別の障害者には役に立たない、時には邪魔になることもある(弱視者にとってポップアップする長い代替テキストは邪魔らしい)。ユーザーテストは一人でではなく、同じ障害にも複数のテスターを配置してほしい、とは障害者側の弁。
最後にフロアの全盲者から、役所の大好きなPDFについて、せっかくのアクセシブル機能が活かされていないという指摘があり、これにやはり全盲の岩下編集長が「プレーンテキストが一番」と大正論。もっともタグ付きPDFは読みやすいとのこと。裏技としてはgoogleを介することでPDFをHTML化できると(障害者は工夫している!)。役所のPDF好きは、印刷書式重視の名残りで、アクセシビリティへの配慮からではないらしい。
Macintoshは環境設定でズームや白黒反転、コントラスト調整ができるけれど、見る限り各種支援ツールは全部Windows用。クライアントのOSに依存しないASPサービスはできないのだろうか。
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